オオカミくんと秘密のキス
「そうか…東野の家ってどこ?迎えに行こうか」

「え?」


迎えにって…






「い、いいよ悪いし…」

「遠慮すんなよ。早くお前に会いたいし、家にいても俺はやることなくてさ」


私だって早く会いたい…でも……




「こ、これからちょっとだけ4人で出かける用事があって…春子が買い物あるっていうから付き合う約束しちゃったんだ」


嘘をついてしまった…

ごめんね凌哉くんっっ!!!





「そうか…なら仕方ねえか」


残念そうな凌哉くんの口調に、胸がズキズキと痛む。





「本っっっ当にごめんねっ!私も凌哉くんに早く会いたいんだけど…」


凌哉くんに迎えに来てもらっちゃうと、プレゼントが見えちゃうからサプライズ出来なくなっちゃう…





「約束したならしょうがねえよ。大人しく家で待ってるわ…今さっき洋平が先に来たから、隆也と3人でゲームでもやってるよ」

「洋平ってばもう凌哉くんの家にお邪魔してるの?ごめんね…私と一緒に連れていこうと思ったんだけど、先に行くって聞かなくて…迷惑かけてないかな?」


隆也くんといっぱい遊びたいからって言ってたな。遊ぶのはいいけど、夏休みの宿題とかやってるのかな…





「全然大丈夫。むしろ隆也が喜んでるよ」

「良かった…お母さんは?」

「いるよ。朝から妃華と料理作ってるよ。お前が来るからってすげえ張り切ってる」

「そう…」


妃華ちゃんがお母さんの手伝いしてるのか…

本当は私が手伝いたかったな…






「じゃあ、来るの何時頃になる?」

「え?あ、そうだなぁ…5時くらいかな」


どっちにしても手土産買いに行きたいし、今は2時だからそれくらいがいいよね…





「わかった。気をつけてな、なるべく暗くなる前に来いよ」

「うん!ありがとう」

「じゃ後で」


電話が切れると凌哉くんに会いたい気持ちがより増して、廊下の隅でひとりスマホを握り締めていた。




早く会いたいなぁ…

凌哉くん、プレゼントあげたらなんて言うかな…あー楽しみ過ぎるっ





♪♪♪~


するとまた電話が鳴り、私は握り締めているスマホを見た。一瞬また凌哉くんから電話がかかってきたのかと思ったが、画面には知らない番号が表示されている。





誰だろう…?



私は迷ったが、とりあえず電話に出てみることにした…





「…もしもし?」

「あ、もしもーし?わかる?妃華ですけどぉ」


妃華ちゃん…?



電話をかけてきたのは思いも寄らない人からで、私は急に緊張してあたふたしてしまう。





「あのっ、えっと…」

「急に電話したりしてごめんねぇ。凌哉に沙世ちゃんの番号聞いたんだ♪」

「え…」


凌哉くんから?

どうして………?



凌哉くんを信じてるのに、なんか急に不信感が芽生えてくる。






「沙世ちゃんに電話したのはねぇ…ちょっとおつかいを頼みたくて」

「おつかい…?」

「そう!今日のパーティーのケーキをケーキ屋に注文してたんだけど、私料理とかで手が離せなくて取りに行けないんだよね~悪いんだけど、来る前にケーキ屋に取りに行ってくれないかな?」


おつかいってそういうことね…

凌哉くんから私の番号を聞いたのは、それを頼む為だったのか。






「いいよ」

「ありがとう!a町の駅前のケーキ屋で凌哉の名前で頼んであるから~あ、料金は払ってあるから大丈夫だよー」

「わかった」


a町って事は隣町か…

ちょっと距離があるな…






「急にごめんねぇ~あ!凌哉のお母さんが呼んでるから行くね!じゃ、ケーキよろしくぅ」


プツンと電話が切れ、私はスマホを耳から離して画面を消した。そしてフゥとため息をついたあと、スマホをポケットにしまう。




やっぱり妃華ちゃんて苦手…

でもまあ、いいか。これで私にもなにか出来ることが見つかったし…





「沙世ー?電話終わった?」


多美子ちゃんの部屋から、春子が少し心配そうに顔を出す。

私はケーキを取りに行くことをみんなに話して、3時半頃になると多美子ちゃんの家を出てa町にあるケーキ屋に向かった。

多美子ちゃんの家から、ケーキ屋があるa町までは電車で3駅。手土産も買う為予定よりも早めに向かうことにした私…


プレゼントの箱の入った紙袋を持ち、電車に揺られa駅に到着。

改札を出てキョロキョロと辺りを見渡すと、駅前におしゃれなケーキ屋さんがあった。私は小走りでそのケーキ屋に入る。






「いらっしゃいませ」


そのケーキ屋さんはとても可愛い内装で、店員のお姉さん達もかわいらしい服を着ている。

ショーケースに入ったケーキはどれもかわいくて美味しそう。凌哉くんの誕生日ケーキはどんなものだろうと、私の期待は膨らむばかり…





「あの…誕生日ケーキを注文した尾神ですけど」

「尾神様ですね。確認して参りますので少々お待ちください」


店員さんは厨房の方に入って行った。私はもう一度ショーケースのケーキを見たあと、店内に置いてあるお菓子に目を移した。




クッキーとかも置いてあるんだ…

あ、あのクッキー可愛い♪






「お待たせ致しました。こちらが尾神様のご注文頂いたケーキでございます」

「わ~♪」
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