オオカミくんと秘密のキス
ちょっ…!

お母さんの前で何言ってんのよっ!!





「なんでもないんですっ!アハハハ…」


私は2人の間に割って入り凌哉くんの口を封じ込める。






「とにかく2人で下に降りてきてね。沙世ちゃん今夜はまだ時間大丈夫?」

「はい全然!」


今日のことはお母さんにもちゃんと伝えてあるし、それに夏休みだしね。






「良かったわ。凌哉のこと無理矢理引きずり下ろしてもいいわよ?それかほっといて沙世ちゃんだけでも来てね」


響子さんは笑いながらそう言って手を振ると、部屋から出て行った。また凌哉くんと私のふたりきりになる。






「はぁ…」


危なかったぁ…


なんかお約束な出来事だったけど、やっぱりハラハラするよ。あんな現場親に見られるのが一番嫌だよね…






「沙世」

「え…?」


ベッドに腰掛けて一安心していると、後ろから凌哉くんが私の肩を叩く。そして…






「続きしようか」

「…」


ニヤリと微笑んで言う凌哉くんに、私は「嫌!」と言ってまた思い切り突き飛ばした。
















「今日はありがとうございました」


数時間後。帰ることにした私と洋平は、玄関先まで見送ってくれた響子さんに挨拶をしていた。

凌哉くんと隆也くんが私達を家まで送ってくれる為、玄関で靴を履いて弟達はふざけ合って遊んでいる。






「いいえ♪今日は凌くんの誕生日も出来たし、沙世ちゃんにも会えたからとっても素敵な1日だったわ。また遊びに来てネ」

「はい!」


太陽のような笑顔で笑う響子さんは本当に綺麗で、私はうっとりと見とれながら返事をして4人で凌哉くんの家を出た。








「キャハハハ」

「待てー」


夕方にあれだけ降った雨はいつの間にか止み、嘘のように空は雲一つなく星が輝き月が綺麗だ。

私達の少し前で駆け回る弟達を眺めながら隣にいる凌哉くんをちらっと見ると、なんだか不機嫌そうな顔をしている。

さっきからずっとこの調子で、口数も少なくテンションも低い。





もしかして…

さっき突き飛ばしたこと怒ってるのかな…


それに私からキスしなかったことも…









「あの…凌哉くん?」


恐る恐る探りを入れるように話しかけると、凌哉くんはチラッとこっちを見る。その表情はやっぱりどこか怒っていて不機嫌。






「えっ…………と……今日は楽しかったね!凌哉くんの誕生日を一緒に祝えて嬉しいな」

「うん…」



う…

リアクション薄い…


それに声のトーンもどこか低いような…









「あのさっ!」


この雰囲気に耐えられないと思った私は、勇気を振り絞って凌哉くんに切り出した。

私のその様子を察したのか凌哉くんは立ち止まると、近くにいる弟達に声をかける。







「お前ら先に帰ってろ。隆也は洋平んちでちょっと待たせてもらえ」


すぐそこに私の家が見える距離のところで、凌哉くんは弟達にそう言った。




「やったー」

「早く行こうぜっ」


弟達がアパートに入るのを確認すると、私と凌哉くんは同時に顔を合わせる。
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