オオカミくんと秘密のキス
「話しましょうか」

「う…うん」


一瞬微笑んだ凌哉くんの顔は恐くて迫力があり、自分からけしかけたくせになんだか怖くなってしまう。敬語を使っているところが更に恐怖だ。



でもここで引き下がるわけにはいかない…



ゴクリと息を飲んだあと、私と凌哉くんは近所の公園へとやって来た。ここは凌哉くんと両想いになった思い出の場所。

夜の10時近い時間の公園は、当然誰もいなくてしーんと静まり返っている。私達は一人分のスペースを空けてベンチに腰掛けた。







「…」

「…」


お互い口を開かない。


こうなってくるとどっちから話すのかが問題になってくるけど、ここはこっちから話しかけてみるか…







「あの…」

「タイミングって大事だよな」



あれ?






私から話しかけようと思ったのに、意外にも凌哉くんの方から口を開いた。それに怒ってると思っていたのに、今はそうでもない様子だ。






「いい時に限って邪魔が入るのが人生ってもんだ。だけどそれ以前にお前が躊躇し過ぎんだよ!」

「あ、私!?」


キッと私を睨む凌哉くんは、またぶり返したように怒り始めた。








「俺が「キスして」って言ったらさっさとやればいいんだよ!なのにお前はモジモジモジモジしやがって…」

「当たり前でしょっ!こっちはすごい恥ずかしんだからっ」


そんな簡単に言わないでよね!キスすらまだ慣れてないのに。






「恥ずかしいだ?女みたいなこと言ってんじゃねえ」

「私は女ですっ!」


夜の公園で何を言い合ってるんだろ…

思い出のこの場所でこんな事してるってどうなの?







「わかった!ここは俺が折れてやる!」


ベンチからガバッと立ち上がると、凌哉くんは私の前に立つ。





折れるってなによ…

今喧嘩してるわけじゃないのに…







「ここでキスしてくれんなら今回のことは忘れてやる」

「っ…」


そうか来たか!






「ここ外だよ!?」

「この時間なら誰も来ねえよ。みんなもう寝てる時間だろ」

「まだそこまで遅くないって!」


どんどん私に近づいて来る凌哉くんに、私は顔を赤くしながら抵抗。







「ほら…さっさとしちまえ。1回すればいいんだよ」

「ちょ、ちょっと待って…落ち着いて」


ぐっと顔を近づけてくる凌哉くん。もうキスしてもおかしくない距離だ。











「君たち…ちょっといいかな?」





ビクッ









その時、後ろから大人の男性の落ち着いた声が聞こえてきて、私達は驚きながら後ろを振り返った。

そこには巡回中のおまわりさんがいて、私達のことを見て苦笑いしている。







「や、やめて!」







ドンッ
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