オオカミくんと秘密のキス
いつの間にか、凌哉と沙世ちゃんは付き合い始めていた。


あんなに邪魔した私の努力はなんだったの…?

沙世ちゃんの前で凌哉にキスしたり抱きついたりしたことは?


全部無駄?

なんてことない事だったの…?








「どうしてよ…」


凌哉と電話を切ったあと、私は体を震わせながらそうつぶやいていた。






あの子と凌哉が付き合ったってことは…もう手を繋いだりとか、カップルらしいことをしてるってことだよね?

もしかしたらそれ以上のことも。


凌哉は恋愛に対して真面目だけど、彼女に手を出すのが遅いタイプには思えないし…

ということは…やっぱりもうそれなりのことしてるんだよね。




ムカつく。






凌哉の頬にキスをしたのは私が初めてだった…

このまま大人になって付き合ったら、口のファーストキスは私になるはずだったのに…



先を越されるなんて…






どうして?

あの女のどこがいいの?



どこにそんなに惹かれたっていうの?






ねえ、凌哉…


どうしちゃったの…?













「ちーーーすっ♪」


夏休みが始まってすぐ、私は大きなキャリーバックを持って凌哉の家を訪れた。

毎年夏休みには凌哉の家に数週間泊まるのが行事のようなものになっていて、今年はいつもより早めに家に出向いた。


もしかしたら凌哉に拒否られる可能性のあるのを恐れ、来てしまえばこっちのものだというふうに考えた私…


こうなったら、どんな手を使ってもあの2人を別れさせるしかない!

そう意気込んでいたのだけど…










「…よう」


私が遊びに来たというのに、凌哉はなんだか素っ気ない…しかも…






「え!?圭吾くんの家に行った!?」


私がお風呂に入っている間に、いつの間にか凌哉は友達の家に行ってしまっていた。おまけに、ただ遊びに行っただけじゃなく泊まりに行ったみたいだ…



もしかして私を避けてる…?

あの女のために!?





込み上げてくる怒りを耐えながら、頭をフル回転させて次の作戦を考える。

長く綺麗な形の爪にネイルをしている私は、そんなことも忘れて気がつくと爪を噛んでいた。



焦ってる自分が超キモイ。

こんなの初めてだった…





数日経っても状況は変わらず、凌哉は相変わらずあまり家にいることはなくて、私と顔を合わせる事はなかった。






「誕生日パーティーに沙世ちゃんも来るの?」


仕事から帰宅した響子ママと、数日後に控えた凌哉の誕生日パーティーの話をしている時の事だった。






「そう♪まだ凌哉の彼女に会ったことないから今から楽しみなのよ~悪いけど当日はお料理の手伝いお願いね」

「うん!任せて」


響子さんに笑顔を向けながら、私は内心いたずら心を膨らませていた。


とりあえず今は、沙世ちゃんに地味に意地悪して気を晴らそう。

ここに遊びに来るなら、ちょっとくらいなら嫌がらせできるよね♪






パーティー当日。

この日は珍しく朝から家にいた凌哉。それだけで嬉しかった私は、響子さんとキッチンで料理作りに追われていた。

その隙に凌哉のスマホを覗き沙世ちゃんの電話番号をメモると、気づかれないように電話をかけた。

そして予約していたバースデーケーキを取りに行く役目を沙世ちゃんに任せて、心の中でニシシシと笑っていた。




ほんの軽い気持ちだった…


なのに…










「沙世と連絡が取れねえんだ!」
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