オオカミくんと秘密のキス
「そうよね…でも……あんまり妃華ちゃんを怒らないであげてよ。自分から白状したんだし、それに今日は凌くんの誕生日なんだしさ」


凌哉を宥める響子ママ。それに私こともフォローしてくれる言葉も言ってくれなんて、なんか泣きそうになって来る。







「…あっ、ちょっ……もしもし?」


急に電話が切れたのか、響子ママはスマホを耳から離した。そして私の方を見て少しはにかんだあと、弟くん達の所へ行き心配な気持ちを和らげるような言葉を繰り返していた。





私もソファーから立ち上がり、窓の外を眺める…


こんな時にでも考えることは、沙世ちゃんのことよりも凌哉のこと。そんな自分が本気でクズだと思った…



自分大好きだったのにな…

なんでか今は自分が大嫌い。




















ガチャ…


しばらくすると玄関のドアが開く音がして、私達はすぐに玄関に向かった。







「凌くん!」


玄関に行くとびしょ濡れになった凌哉と沙世ちゃんが立っていて、響子ママと弟くん達はホッとしている様子。

沙世ちゃんの無事を確認した私は心から安心した。同時に凌哉を見るとすごく怖い顔をしている。





謝るなら今…

許してもらおうなんてそんな虫のいいことは思ってないけど、ちゃんと謝らないといけない…







ガシッ


急に凌哉に力強く腕を捕まれ、ものすごく怖い顔で睨まれた。凌哉は私に何か言っているみたいだったが、怖すぎてその言葉が頭に入って来ない…






怖い…



凌哉が私にこんなことしてくるなんて…

やっぱりもう…幼馴染みにすら戻れないのかな…





「うっ…」


私は泣きながら言い訳混じりの謝罪の言葉を吐いたあと、その場から走って自分の荷物が置いてある客室に入った。

そしてベットにうつ伏せになり、声を出してうわんうわん泣いた…





後悔なんて初めてかもしれない。


あんなことしなきゃ良かったって…今となったら心底そう思う。

あんな子供じみた意地悪をして、一体私は何がしたかったんだろう…



凌哉の誕生日に…

私は凌哉を失ってしまったんだ…





部屋の隅に置かれたキャリーバックの中に、凌哉にあげるつもりだったプレゼントが入っている。



プレゼント…渡したかったなぁ…

もう一生渡せないのかな…

これからは凌哉の誕生日にすら、私は呼ばれないのかな…







「くっ…」


また涙が溢れ出す。


私はその日一晩中泣き明かした。

夜に響子ママが夕食を持ってきてくれたけど、とても食欲がなくて食べられず次の日の昼までベットの上で抜け殻のように過ごした。


そして重い体を起こしそっと部屋を出ると、バスルームで熱いシャワーを浴びて凌哉の部屋に向かう…





このままじゃダメだ。


もう一度ちゃんと謝りたい…



謝る相手は沙世ちゃんだってこともわかってる…

だけど…




凌哉に許してもらわないと、沙世ちゃんに会っちゃいけない気がするから…






コンコン




凌哉の部屋のドアをノックする。







ガチャ…


すぐに部屋のドアが開き、隆也が顔を出した。






「あ…妃華ちゃん…」


私の顔を見た途端、気まずそうな顔をする隆也。私と凌哉が顔を合わせる事が、今はまずいとわかっているんだろう…






「ごめんね。凌哉と話たいんだ…」


私がそう言うと隆也は「うん…」と頷いたあと、部屋から出て行った。
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