オオカミくんと秘密のキス
緊張した面持ちで部屋に入ると、凌哉は私の顔を見るなり顔つきが変わり、すぐに目をそらすと座っていたベットに横になった。






「りょ…凌哉……」


私を無視するかのようにスマホをいじり始める凌哉に、私は勇気を出して話しかける。






「ちゃんと…謝りたくて……その…本当にごめんなさい…」


ノーメイクで髪もセットしてない状態での謝罪は、私なりの反省を表していた。





「…」

「謝る相手が違うのはわかってるよ…沙世ちゃんにも会ってちゃんと謝りたいの」

「もう沙世に近づくな」


凌哉のその冷たい言い方に泣きそうになる。

沙世ちゃんに謝らないと一生後悔することになる…そんなの嫌だよ。


それに…凌哉にはこれからずっとこんな態度を取られるんだろうか。 私が悪いのはわかってるけど、そんなの耐えられないよ。





「凌哉…この際だから言っておきたいことがあるの…」


どうせ凌哉から嫌われるならいいや。もう言ったって構わない。





「なんだよ。まだ話あんのかよ」


めんどくさそうにベットから起き上がる凌哉は、ため息をついてまたスマホをいじり始めた。

私は凌哉を真っ直ぐ見つめて、手足を震わせながら口を開く。







「…私…ずっと凌哉が好きだった。子供の時からずっと…」


とうとう言ってしまった。

めちゃめちゃ恥ずかしいし、かっこ悪いし今にでも逃げ出したい気分。




凌哉は私の言葉を聞いて、驚いた様子でスマホに向けていた目線をこちらに移す。






「…何言ってんだよお前」


信じられないと言ったような凌哉の顔。

その顔の意味が私にはよくわからない。驚くならわかるけど、凌哉はすごく嫌そうな顔をしたからだ。






「なにその顔…」


ストレートに聞いてみると凌哉は嫌そうな顔をしたまま、またスマホに目を向ける。






「お前が俺を好きだと?冗談言うなよ」

「じょ、冗談!?こっちは本気だけどっ」


本気であんたに告白したよ私は!





「俺の性格わかってるよな?俺潔癖だって言ってるじゃん」

「…だから何よ?」


今、潔癖のことって関係あるの?





「身内みたいな存在のお前を恋愛対象として見てねえってこと」

「あぁ…」


そういうことね。はいはい、知ってますよ。





「お前となんて…全く知らない赤の他人と付き合うよりもないな」

「ええ!そんなに?」


そこまでいってたとは…





「当たり前だろ。お前と付き合うってことは、隆也と俺が付き合うのと一緒のレベルだよ」

「…」


そんなレベルなのか…

ってことは、凌哉が私を好きになることなんて一生なかったってこと…?





「あは…あはは」


とにかく笑うしかない。

失恋の仕方があまりにもあっさりし過ぎて逆に気持ちいい。おまけに心もどこかすっきりしているし…







「あれ?これ…」


その時ベットのそばの床に落ちていた、なにやら光っている物を凌哉が見つけそれを手で持つ。






「沙世のネックレス…」


凌哉が手に持っているのは、ピンクゴールドのネックレス。
< 138 / 210 >

この作品をシェア

pagetop