オオカミくんと秘密のキス
あれは沙世ちゃんのネックレスなんだ…


そのネックレスは、ピンクゴールドでどちらかというとシンプルなデザインだった。キラキラしたものやチャームが大きめなものを好む私は、絶対にそのネックレスを選ばない。



私と沙世ちゃんは見た目も好みも違う。凌哉はそんな沙世ちゃんを選んだ…

いや…私は最初から選ばれてすらない。相手にされてもいなかったんだ。


そんなことを考えながら何気なくそのネックレスを見ていると、凌哉はスマホで誰かに電話し始めた。






「あ、沙世っぺ?今なにしてる?」


沙世っぺ?…とうことは電話の相手は沙世ちゃん?


凌哉は沙世ちゃんのことを「沙世っぺ」って呼んでるの…?

女の子をそんな呼び方するなんて…凌哉は本気で沙世ちゃんのことが好きなんだね。






「照れんなよ。…それよりさお前、ネックレス俺んちに置いていっただろ?」


凌哉は沙世ちゃんと話しながら立ち上がり、クローゼットを開けた。





「今から届けてやる。え?なんだよれ、素直になれって…本当は俺に会いたいくせにさ」


嬉しそうに笑いながら凌哉はスマホを耳と肩の間で固定して、両手が空いた状態になるとそのまま服を脱いで着替えをし始めた。


これから沙世ちゃんの家に行くんだ…

まだちゃんと決まったわけじゃないのに、もう行く気満々だよ。


ウキウキして嬉しそうな凌哉なんて、ほぼ初めて見るな…

笑った凌哉の顔はもう何度も見てるけど、こんな顔をする凌哉は見たことがない。

沙世ちゃんは私の知らない凌哉をたくさん知ってるし、いっぱい見てるんだ…




もうあの子には敵わない…

完敗だ。








「すぐ行くから家にいろよ。うん、じゃあな…」


電話を切ると凌哉はスマホと財布をズボンのポケットに入れて、私に声をかけることなく部屋を出ていこうとした。







「凌哉」


ドアノブを掴みドアを開ける凌哉に声をかけると、凌哉はめんどくさそうにこっちを振り向いた。






「…急いでんだよ」

「ご…ごめん…だけどやっぱり私…沙世ちゃんにちゃんと謝りたい」


凌哉に嫌われたままも嫌だけど、沙世ちゃんにも嫌われたままは嫌。

凌哉がここまで好きだって想ってる人に、嫌われてるなんて幼馴染みとして嫌だよ。


こんな自分はめんどくさいし、わがままだってわかってる…

だって私わがままなんだもん。

生まれた時からずっとわがままだから




気がつくと目から涙がこぼれていた。


こんなことで泣くなんて…有り得ないでしょ…

でも止まらなかった。







「…沙世に聞いてみて…お前に会ってくれるつーなら帰りに連れてくるよ」

「え…」


ため息混じりで言う凌哉を、私は泣いてぐしゃぐしゃになった顔を上げて見つめる。





「それでいいだろ。…隆也のこと見ててくれよ」


パタン…



凌哉はそう言い残して部屋を出て行った…1人部屋に残された私は、そのまま床に膝をついて泣いた。



これは凌哉が私に与えてくれたラストチャンスなんだ…

凌哉はやっぱり優しい…きっとこのチャンスを逃したら、きっと凌哉は一生私を許してはくれないだろう…


ありがとう。

ありがとう凌哉…



もうあんたの恋人を目指すのはやめる。

凌哉にとっての1番の女友達は私!

私はこれからはあんたの最高の幼馴染みになるよ…
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