オオカミくんと秘密のキス
「ありがとう…」

「ああ」


並んでいる本を適当に取ってペラペラとめくる尾神くんに、とりあえずお礼を言う。





「そうだ」

「え?」

「連絡先教えて」


は?



本をパタンとしめて本棚に戻すと、尾神くんは思い出したように口を開いた。




「んだよその顔…」

「え?だ、だって…なんで尾神くんが私なんかの連絡先と思って…なんか不思議だなって…」


こんなにストレートに連絡先聞かれることなんて初めてに等しいから、なんて返事していいかわかんないよ!

尾神くんはモテるから女子の扱いに慣れてるっぽいけど、私は全然慣れてない…





「…なんでか知りたい?」

「?」


一度ポケットから出したスマホをしまい、尾神くんはニヤニヤしながらまた私に近づいて来た。

怖くなって後ろに下がると、今度は壁に背中が当たり行き止まりに…!尾神くんはゆっくりと私の顔に近づいてきた。





「ちょっ……あの!ゃめ…」


今度こそキスされると思い口を両手で塞ぐと、尾神くんは私の耳元に近づいて来た。




「またキスされると思ったの?」

「ぐっ……」


恥ずかしい…

ってゆうかムカツク!!





「か、からかうのやめてよね!今度やったら怒…」

「…」


顔を赤くして声をあげる私を見て、尾神くんは冷静な顔つきで私が背を向けている壁の上の方を指さした。

不思議に思いながらも後ろの壁を見上げると、そこには『図書室では静かに!』のポスターが貼られていた。



ここにも貼ってあるの!?

全然気が付かなかった…




「お前一応図書委員なんだから…図書室では静かにしろよな」

「う…」


言い返せない…

それに前は尾神くんがガッチリガードしてるから逃げらんない。すり抜けるのも無理…

しかもまだ私の耳元に顔近づけてるしっ

本当に恥ずかしい…





「連絡先教えてよ」


耳元に尾神くんの息がかかる。心臓が飛び出そうなくらいドキドキする…





「な、なんで教えなきゃ…いけないのよ…」


もっと男慣れしてる女子に教えてもらえばいいんじゃん…





「なんでって…」

「…何?………んっ」


ふと尾神くんの方に顔を向けた瞬間、不意を突かれたようにキスをされた。


遠足の時とは違う…

今度はちゃんとキスの味がした…




恥ずかしい気持ちは頂点。

顔は更に赤くなりおまけに手元は震えてしまう…




「なっ、なにすん…」

「あれ」


大声で怒鳴ってやろうとしたら、尾神くんはまた壁の貼り紙を指差す。私がぐっと怒りをこらえると、尾神くんはクスクスと笑った。





「お前って本当に面白いね」

「そ、そうですか…」


私はあなたのことちっとも面白いとは思わないですけど。
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