オオカミくんと秘密のキス
「沙世が行くなら私も行く♪」


すると春子が自主的に手を挙げて、頼もしい顔をして私に近付いてきた。



さすがわが親友!

どんな時でも一緒に頑張るぞ!!






「じゃあお願いね!大変そうだったら手伝いに行くからね」

「了解~」


エプロンをつけた私と春子は調理室を出て、小走りで教室へ向かった。






「うわ!すごい…」

「結構人がいるね」


教室に行ってみると…開店してまだわずかな時間しか経ってないのに、教室の中はお客さんが満員。しかも外には列が出来ていて、パッと見ただけでも10組はいる。





「あんみつ屋…人気だね。やっぱり日本人だから和菓子って魅力的なのかな」

「それもあるかもしれないけど…繁盛してる大半の理由はアレじゃない?」

「え?」


怖い顔をして春子が指さした先には…受付にいる凌哉くんと柳田くんの姿が。





「ねえ~尾神くんがあんみつ作ってくれるの?」

「後で写真撮っていい?」

「柳田くんが接客してくれないの?」


並んでいる女子達にひっきりなしに声をかけられている2人…

凌哉くんは一応笑顔で適当にあしらっているが、柳田くんは困ったような顔をして生徒達の対応を受けていた。




なるほど。

混んでる理由はそういうことか…

ほとんどが凌哉くんと柳田くん目当てなわけね。

だから、お客さんの9割が女子だということも納得できる…






「調理係の人~ドリンクお願いしまーす」

「あ、はーい!」


教室から顔を出す接客係の人に急かされ、私と春子は急いで教室に入った。

途中凌哉くんとちらっと目が合ったけど…なんとなくそらしてしまった。春子はモテモテの柳田くんに向かって、べーっと舌を出していた。



もう…

私ったら、なんであんな態度取っちゃうんだろ。


文化祭だから仕方ないとはいえ、モテてる凌哉くんを見て嫉妬してるのかな。

ちっちゃいな私…







「抹茶ラテとほうじ茶追加!」

「あ、はいはい!」


とはいっても…今はそんなこと言ってられない。

調理係の仕事をちゃんとやらないとね!



私はスイッチを入れ替えるように深呼吸をしたあと、教室の隅に設置されているジューサーや材料が置いてあるドリンクを作るフロアに行き、オーダーの入った飲み物を春子と手分けして作り始めた。






「このラテめっちゃうまい!」

「あんみつも美味しい♪」


ドリンクを作りながら聞こえてくるお客さんの声が耳に入り、嬉しくなる私。



どんな形であれ…自分の作ったものを「美味しい」って言ってもらえるのって嬉しいな…

フロートやラテなんて今まで作ったことなかったから、春子と色々実験したりしたんだよね。


それも苦労も含めて、文化祭ってすごくいいものだと思う。

こういう経験てすごく貴重だよね。








「沙世ー!きな粉が切れちゃったんだけと、ストックってどこだっけ?」

「あーはいはい…そこの袋にあるよ!」


しんみりと浸ってる場合じゃないよね…

今は仕事をしなきゃ!







「はぁ…さすがに疲れたわ。もうジューサー使いたくない…」


あんみつ屋が開店してから2時間半を過ぎた頃…春子が力ない声を出して、カラになった牛乳のパックをゴミ箱に捨てた。



さすがに私も疲れてきた…

ジューサーの振動で手の感覚がおかしい…






「今思ったけど、これって調理係が一番大変なんじゃないの?」


嫌味ったらしくブツブツ言う春子は、機嫌が悪そうにため息をついた。




確かに大変な仕事だけど…他の係の人も、自分の係が一番大変だと思ってると思うけどなぁ…

なんて、今の春子には怖くて言えないや。



柳田くんがモテてるところ見たから、さっきからずっとご機嫌ななめなんだよね…

ま、気持ちはちょっとわかるけど。
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