オオカミくんと秘密のキス
「お客さんが少し引いたから、この間に休憩した方がいいよ。暑いから水分補給しっかりね」

「はーい」


やっと休憩できる…


私は自分の持って来た荷物からペットボトルのお茶を出して、半分くらい一気に飲み干した。


水分を取ること自体忘れてたから喉がカラカラ…

せっかくだから自分達が作ったドリンクを飲みたいところだけど、今は甘いラテ系のものは受け付けないな。

浴衣着てるから結構暑いし…








「ほうじ茶ラテ下さい」


フロアーに背を向けていると、後ろから聞き覚えのある声で声をかけられた。ふりかえるとそれは凌哉くんで、うちわで自分を扇ぎながら私を見下ろしている…





「あれ?受付の仕事は?」

「圭吾にやらせてる」

「え?1人で?」

「もうそんなに客いねえもん」


外の受付を覗くと、柳田くんが手馴れた様子で仕事をこなしているのが見えた。





「小川のこと呼んでたからちょっと行ってやってよ」

「え…」


柳田くんを指さす凌哉くんを見て、春子は若干照れくさそうに頷いて受付の方に向かった。

春子と入れ替わりで凌哉くんが私の隣に来て、物珍しそうにジューサーやドリンクの材料を見ている…







「…柳田くん…春子の事呼んでたの?」

「ううん。さっきから小川が何か言いたそうにこっち見てたから、気を利かせたんだよ」


凌哉くんも春子のモヤモヤした気持ちに気づいてたのか…

いつも結構おちゃらけてるのに、結構周りのことよく見てるなぁ。






「なんかお前も面白くない顔してたしな」

「う…」


やっぱり気づかれてた…春子の事も気づく位だから当然かな。

さすが凌哉くん…







「お前も受付やれば良かったのに」


凌哉くんはそう言うと私に顔をぐっと近づけてきて、嬉しそうにニヤニヤしていた。






「で、でも私は調理係がやりたかったの!」


それに受付も私がやったら、凌哉くんがモテてるところを真近で見なきゃいけないんだよね…

それは辛いよぉ。





「でも嬉しいな。沙世があれくらい事で妬いてくれるなんて…」

「妬いてたわけじゃないよっ」


ちょっと嫌だなと思っただけだよ…でもそれが嫉妬なんだよね。

はぁ…こんな自分がつくづく嫌になるよ。





「照れるなって。それよりもほうじ茶ラテ作ってくれよ。沙世が作ったドリンク飲んでみたいし」


嬉しそうに笑う凌哉くんがなんだか可愛く見えて、さっきまでのモヤモヤした気持ちはどこかに行ってしまった…






「ちょっと待ってね!」


まるで犬と飼い主だ。

凌哉くんの一言ですぐご機嫌になって、またエサをもらえるのを待ってるかのよう…





「アハハ…圭吾ウケる~」


グラスを出して凌哉くんにほうじ茶ラテを作っていると、廊下から春子の笑い声が聞こえてきた。


どうやら春子も機嫌が直ったみたい…

柳田くんも凌哉くんみたいにうまい具合にフォローしたみたいだね。


あっちは私達とは違って、どちらかというと犬が暴走しないように飼い主がうまく調教してるといった感じかな。

もちろん、犬が春子で飼い主は柳田くんである(笑)






「はい、ほうじ茶ラテだよ!」

「サンキュ」


さっと作ったラテを凌哉くんに差し出すと、それをゴクゴクとほぼ一気に飲み干した。






「…ぅま」

「は、早!」


ストローで一気にいったなぁ…見てて気持ち良かったけど、なんかあっけない。





「こんなの作れるなんてさすがだな。本当のカフェで飲むやつみたい」

「そんなことないよ」


なんて言いつつ、めちゃめちゃ嬉しい!

凌哉くんに褒められると、思わず顔がニヤけそうになるよ!!





「もうすぐ午前中の営業が終わるから…そしたら他のクラス回りに行こうな」

「うん!」


なんかそれって、まるで校内をデートするみたいじゃない?

そんなこと今までないから、なんかすごく特別な感じがするよ♪






「明日はお前の母ちゃん来るのか?洋平は?」


ほうじ茶ラテを飲み干すと、凌哉くんはグラスを片付けてストローをゴミ箱に捨てる。





「洋平連れて来るよ!隆也くんや響子さんは来るの?」

「お袋は仕事で来れないけど、隆也は妃華と来ることになってる」

「そうなんだ!そういえば昨日LINEした時に言ってたけど、妃華ちゃんの学校の文化祭は来週だから来るって話してたわ」


洋平も来ることだし、妃華ちゃんが付き添いで隆也くんも来れてるなら良かった!
< 179 / 210 >

この作品をシェア

pagetop