オオカミくんと秘密のキス
やっぱり…

途中から薄々わかってたけど、凌哉くんの目的はそれか。





「無理無理!全校生徒の前でキスなんて出来ないよっ」

「沙世…まだ優勝できるかわかんないじゃん」


春子に「おいおい」と突っ込みを入れられる…




「あ、そっか」


そうだけど…

“もしも”ってこともあるし。


凌哉くんの事だから何するかわかんないしな。マジでやって優勝なんてことが、全く有り得ない感じもしない。

それに…いざとなったらズルとかしそう(笑)






「優勝したら1万円分の商品券とかも貰えるらしいよ」

「そうなんだ」


さすが柳田くん。情報を良く知ってるよ…




「私はちょっと興味あるな~昨日の内に一通りのクラスは回っちゃったし、そういうイベントやってるなら思い出に行ってみてもいいよね」


珍しく春子もノリノリだな。





「大丈夫だって。優勝なんて多分出来ないからさ」

「…」


私の肩を抱きながら、嬉しそうにニコニコと話す凌哉くん。


絶対そんなこと思ってないよね。

何が何でも優勝してやる!くらい思ってるに決まってるよ…


だけど春子もやるなら…私もやってみてもいいかな。いくら凌哉くんが気合い入ってても優勝なんてできっこないし…

ズルしようとしてたら止めればいっか。

春子の言う通り思い出にっていう感覚で♪







「…あ!」


少し心が動きかけていた時…ふと横を見ると、樹里と絢人の姿が見えた。





「樹里!絢人!」


私はとっさに2人を呼ぶと、私に気づいた2人はゆっくりとこっちに近づいて来る。

なんとなくだけど…樹里と絢人の表情はどこかこわばっていた。



知らない学校に来たらから緊張してるのかな…





「あいつら…」


隣にいた春子が、樹里と絢人の方を見てボソッとつぶやく。






「言い忘れてたんだけど…今日は樹里と絢人がね………春子?」


急に顔つきが変わる春子は、ものすごく怖い顔をして樹里と絢人に小走りで近づいていった。そして…






バチンッッ!






え…






春子は真正面から2人に近づいて行き、その勢いのまま突然絢人の頬をひっぱたいた。






「は、春子っ!」


私はすぐに駆け寄って春子を止める。しかし…





バチンッッ!!!





春子はそのまま樹里の頬も思い切りひっぱたいた。





「は、春っ」


柳田くんも慌てた様子で止めに入ると、春子の腕を掴んだ。

春子の腕は震えていて、目は涙が滲んでいる…




友達を叩くなんて…


どうしてこんなことするの…?







「まだ許してくれないんだね…」


先に口を開いたのは樹里で、叩かれた頬を手で押さえながら言った。




許してくれないって…何のこと?






「…当たり前でしょ。一生許さないって言ったじゃん……なのになんで来たのよ」

「お前と仲直りするためだよ…」


頬を赤くした絢人が、怒りに震えている春子にそう言った。




仲直り…?

なに?何の話をしてるの?






「仲直りなんてするわけないじゃんっ!あんた達は私と沙世を裏切ったでしょ!!!」

「…っ!」



春子のその叫びは廊下中に響き渡っていた…

私はその言葉を聞いても、何のことかさっぱり分からなかった。
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