オオカミくんと秘密のキス
「ななな、何言ってんのよ~まーたそんな嘘を言って~」

「嘘じゃないよ」


とぼけて笑っている私に、絢人は普通に冷静に口を挟んだ。



いやいや!

そんな普通に言われてもどーしたらいいの?

それに樹里の前でそんなこと言っていいわけ?それに…



フェンスにもたれかかっている凌哉くんに目を向けると、怖い顔をして腕を組みイライラした様子で眉間にシワを寄せていた。




う…

やばい。




「そ、それは置いておいて…それでどうしたの?」


絢人が私のを事を好きだったとかいうことは、今はスルーしておいた方がいいよね。






「中学に入学してから三年間、絢人から沙世のこと相談されてたんだ。付き合えるように協力して欲しいって」


春子は俯きながら言うと、風で乱れた髪を手で直して続けた。





「私は絢人の事好きだったから…絢人に協力してたの。たとえ絢人が他の人の事が好きでも、力になれることが嬉しかった。それに…沙世だって絢人のことまんざらでもなかったし」

「はい?」


春子のその言葉で一瞬場がしーんとなる。





「まんざらでもないって!?私そんなこと言ったっけ???」

「学校の中でだったら誰がいい?みたいは話した時に絢人って言ってたじゃん」

「…」


…確かに言ったけど。



いやいやいや!でもそれは消去法というやつで!

絢人以外の男子ってあんまり知らなかったから、学校の中ならということで深い意味はないよ!




ちらっと凌哉くんを見ると、かなり不機嫌なオーラを出してさっきよりも更に怖い。




本気でやばいっ

話を変えよう!






「………私の話は置いておいて。それで?それで?」


凌哉くんには後で誤解を解くとして…話を先に進めよう!







「…それで私は樹里にそのことを相談してたの。自分の好きな人の好きな人に協力するって結構キツくてさ…沙世に相談するわけにはいかないし」


そっか。

その状況だと私には言えないよね…






「樹里に話すとスッキリしたし心が軽くなった。まあ元々、沙世と絢人が付き合うなら諦められると思ってたしね。だから絢人にも協力してたんだけど」

「春子…」


私の知らないところでそんな健気なことしてたんだ…全然知らなかったよ。










「そしたらね、ある日樹里が絢人とイチャついてるところを目撃したの…」

「え…」


絢人と樹里が…?


思い出してイライラしている様子の春子を見て、絢人と樹里は目をそらした。






「実は樹里も絢人の事が好きだったみたいで…私の相談を聞きながら裏で絢人に猛アタックしてたのよ。その押しにやられたのが絢人…私に散々沙世の事を相談したり協力させといて、樹里の色仕掛けにコロッとやられたのね」


2人を軽蔑するように見る春子は、当時のことを思い出してまた涙を流していた。






「この2人は私を裏切った。私はすごい傷ついた…だからあんた達を許さない」


キッと睨みつける春子を見て、樹里が控えめに口を開く。







「本当にごめん…私も中1から絢人がずっと好きだったから……何もしないまま諦めたくなくて…密かに絢人に近づいてたの。春子には申し訳ないと思ってたけど、好きだったから止められなくて…」


樹里…



ポロポロと涙を流す樹里に、私はそっとハンカチを手渡した。







「言い訳しないでよ。なら私に堂々と絢人が好きって言えば良かったじゃん。それだったらあんたを嫌いになんてならなかったわよ」

「言えるわけないでしょ!あんたは友達だったんだから」
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