オオカミくんと秘密のキス
春子はそう言うと、走りながら樹里の足をゲシッと蹴った。





「痛ぁーいっ!何すんのよっ」

「痛っ!」


今度は樹里が春子の足を蹴り返す。





「や、やめなよ2人共…」


私は後ろから走って近づいて、間に入って2人を止めた。





「本当に最低な女」

「あんたには負けるよ」


私を挟んで口喧嘩をする2人。私達3人は並んで走る…





「春子ーガンバ!」

「イケイケ樹里っ」


柳田くんと絢人がギャラリーの中に混じって、それぞれの彼女を応援している。

その隣には凌哉くんの姿もあり、腕を組んで私を見ながら口パクで何やら言っている様子。






「転ぶなよ」




確実ではないが、多分凌哉くんはそう言ってるんだと思われるような口の動きをしていた。

私は凌哉くんに向けてべーっと舌を出して、走り続けた。






「最初のステージは平均台です!下に落ちたら最初からやり直してくださいね~」


スタートしてからしばらく走って最初の障害は平均台。5台くらい並べられている平均台の各両脇にはマットがそれぞれ敷かれている。





「よっと…」


バランスを取りながら平均台に乗って先に進んでいると…







「お前は落っこちろー」

「お前もなっ」


隣同士の平均台に乗る春子と樹里は、お互いを押したり足で蹴ったりして邪魔しながら進んでいる。




次のステージは「飴探し」

四角い箱の中に小麦粉が入っていて、その中に顔だけを入れて口で飴を探すというもの…


「メイクが崩れる~」とブーブー文句を言いながらも、私達は小麦粉に顔を突っ込んで飴を探した。






「あった!」

「私も!」

「あったよ!」


私達3人は同時に飴を見つけ出し、小麦粉で真っ白な顔になりながら口に飴を含んだ状態で顔を上げる。





「ぶっ…アハハハ!あんたひどい顔!」

「うるさいっ!春子も超ブスじゃん!」

「はぁ!?」



これは止めるところだけど…

私からすれば仲良くじゃれているようにも見えた。


思い返してみれば…2人は中学の時からよく些細なことで喧嘩したりしていた。

口喧嘩なんかしょっちゅう…

考え方が正反対の2人はぶつかることが多いけれど、不思議と一緒にいると心地いい空間が生まれる……

そんな2人だった…



それは変わってない。

変わってないんだ…






そして3人で何個か障害をクリアしていくと…とうとう最終ステージ。






「最後の最後は…プールでの挑戦!!!水上アスレチックだよーん!」


司会の生徒が指さしたのはプールで、私達はプールの方に移動…

後ろには他の参加カップルの女子も数名来ていて、この中の誰かがこれで優勝すると思うとドキドキしてくる。






「プールの上に並べられた板の飛んで、水に落ちないようにしてゴールを目指してくださいね!」



う…


プールの水上には無数の板が浮かんでいて、スタート台からスタートして50メートル先がゴールになっている。



これは難しそうだな…

全くをもって自信ないんだけど…







「これは無理じゃない?」

「うん…私も同じこと思ってた」


春子と私は顔を見合わせた。ちらっと樹里を見ると、私達と同じ顔をしている。






「おっと!最初にスタートしたのは三年生の女子!」
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