オオカミくんと秘密のキス
戸惑っている私達を追い越して先にスタートしたのは、三年生の先輩。

水上に浮いた板の上にひょいと飛びのると、すぐにバランスを崩した。






「よろけていますっ!気をつけてください!!」



バッシャーーーンっ




その先輩は板の上でよろけて、真っ逆さまにプールに落っこちて行った。


秋といってもまだ昼間は汗ばむ陽気だから、プールに落ちたとしても問題ないけど…

出来ることなら入りたくないよね…

ジャージがびしょびしょになるし…下着だって替え持ってきてないよ?





「新品の下着販売もしておりますので、その辺は安心してくださいね~」


私の心を読んでいるかのような司会の生徒の発言に、私は更に足が前に出ない…




下着が売ってるからって…やりたくないものはやりたくないよ。

彼氏とか他の人、それに親までも見てる中でこんなかっこ悪いことってある?





「いけいけー!」

「がんばれー!!」


ギャラリーはかなりの盛り上がりを見せている。

後からぞろぞろと私達に追いついてくる参加カップルの女子も多く、みんな水上アスレチックに挑戦し始め出した。






「…うちらも行く?」

「うん…」


春子とまた顔を見合わていると、隣にいた樹里が水上に浮かんでいる板に片足を乗せた。





「あんたっ…先に行くなんて最低ね!」


樹里に向かってギャーギャーと叫ぶ春子。





「あんた達こういうの苦手でしょ?一緒に行ったって足でまといになってプールに落ちるのがオチだから、ここは先に行かせてもらって私が優勝させてもらうわね」


樹里は軽々と板を渡って、ケラケラと笑いながら言った。







「ちょっと待ちなさいよっ」

「あ、春子!」


春子はキーッと怒りながら、樹里を追いかけて板を渡って行った。私は慌てて春子を追いかける。






グラッ…




「きゃ…」


板の上に乗るとかなりバランスが悪く、立っているのだって危ない。


これ…見た目以上に難しい……








「何すんのよっ」

「お前をプールに落としてやるー」


私のいる板の少し先の板の上で、春子と樹里はまるで相撲をとっているかのようにお互いをプールに突き落とそうとしていた。







「や、やめなよっ!」


私は板を飛んで2人の側まで行き、2人に抱きつくような体制をして止めに入った。





「きゃあ!」

「危ない!」


一つの板の上に3人が乗ってる状態になり、余計にバランスが悪くなる。

グラグラと揺れる板の上で、私達3人は円を組むように寄り添う。






「沙世は危ないから先に行って!私は樹里を落とさないと気が済まないから!」

「それはこっちのセリフだっつーの!」


3人で寄り添いながらも、春子と樹里は睨み合っている。






「もう本当にやめて!こんなのおかしいよ」


私は思い切って自分の思いの丈に出した。






「沙世は黙ってて!」

「おかしいのは春子でしょ!」
< 202 / 210 >

この作品をシェア

pagetop