オオカミくんと秘密のキス
たいしたことないといいけどな…

とにかく今日の委員会の仕事は私1人でなんとかしないとね。まあ、仕事っていっても特にやること無いから1人でも問題ないよ。







「げっ…」


図書室のドアを開けると、カウンターの中の席に尾神くんが座っていた。




「よ」


爽やかな笑顔を見せる尾神くんに、私は警戒しながら恐る恐るカウンターの方へ足を運ぶ。




「あ、の…座るところ間違ってますよ?利用者の方はあちらですが…」


顔をひきつりながら利用者が使うテーブルを指さす私。






「小川が用事で帰ったんだろ?手伝ってやるよ」


ふざけている雰囲気も冗談で言っている感じでもなく、本当に手伝おうとしているように見える尾神くん。



なによ…

急に優しくなっちゃってさ…いつもからかってくるくせに…





「そんな…大丈夫だよ。悪いし」


これもオオカミの作戦?

こうやってたまに優しくしとけば女はコロッと落ちると思ってる?

私は騙されないよ。





「いいって。俺が勝手にやってるだけだから、ほっとけよ」

「……」


そう言って私から目をそらし、カウンターのテーブルに肘をつく尾神くん。



…なによそれ。

ちょっと怖い雰囲気出しちゃってさ…



なんだか気まずくなってしまい、私は何も言葉を返さずに尾神くんの隣の椅子を少し横にずらして座りカバンを足元に置いた。




「………」

「………」


会話がない。

いつも用もないのに話しかけてくるくせに…隣同士に座ったらなんで無言なの?調子狂うなぁ…


今日に限って図書室の利用者は少ない。テーブルには3人ほどの生徒がまばらに座りそれぞれ勉強している様子。参考書や本をめくるパラパラという音や、シャーペンで字を書く音が図書室に響いている。


静かだな。

いつもは気にならない図書室の時計の音さえチクタクと耳に付く…

こんなに静かだとますます隣の尾神くんが気になっちゃうよ…

チラッと隣にいる尾神くんに目をやると、近くに並べてある図書カードを手に取ってぼんやりと見ている。



てっきりふざけたりするのかなと思ってたけど、ちゃんと委員会の仕事やってくれるみたいだな…

なんだ…結構いいところもあるのかな?


いや、でもこれも作戦かもしれないんだっけ?…だけどそんなふうには見えないな。そんなこと思ってるのは…なんか失礼な気さえする。


そして時間は過ぎ、尾神くんと一言も話さないまま図書室を閉める時間になった。

今日図書室にいた生徒達は頻繁にここを利用している人達なのか、16時近くになると自主的にそれぞれ図書室を出て行った。

図書室には私と尾神くんの2人きりになり、妙な緊張感が走る…





「あの…今日はありがとね、助かっちゃった。あとは私がやるからもう帰っても大丈夫だから」


最後までいてくれたんだし、一応お礼くらいは言わないとね。




「…まだ返却の本が残ってんじゃねえの?」

「あ、うん。それは私がやっとくから大丈夫だよ」

「俺がやる。お前は戸締りしろよ」


え?



そう言って立ち上がると、尾神くんは返却boxから本を出す。





「私がやるって!」

「いい。手伝ってんのにお前のやる事増えたら意味ねえだろ」


「でも…」と私が言葉を発する前に、尾神くんはスタスタと本を戻しに本棚の方へ行ってしまう。



なによあいつ…口調は冷たいけど優しいこと言っちゃって…

正直ドキドキしていた。こんなふうに男子から積極的に優しくされたことなんてなかったから…


胸の鼓動がうるさくなりながらも、窓の戸締りを終えてふと振り向くと尾神くんが私に近づいてくる。




「終わった」

「ありがとう…本当に助かったよ」


ここは素直にならなって、ちゃんとお礼を言った方がいいよね。




「これで終わり?」

「書庫の鍵を閉めたら終わりだから閉めてくるね」


小走りで書庫に向かい一応部屋の中を覗いて確認したあと、ドアを閉めて鍵をかけた。

カチャンと鍵を閉めると後ろに気配がして、振り向くと尾神くんが私を見下ろしている。




「び、びっくりした…」


近い距離にいる尾神くんを見て恥ずかしくなりその場から離れようとすると、尾神くんに手を掴まれた。




「な、に…?」

「ひとつ聞いていい?」


低くて男らしい声にまた胸がドキドキと鳴る。





「いいけど…」
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