オオカミくんと秘密のキス
尾神くんの方見れない…

私は尾神くんに手を掴まれた状態で俯き声を出した。





「マスク外したの?」

「え?マスク??」


予想外の質問に思わず尾神くんの方に目を向けてしまう。そんな私を見て尾神くんは笑っていた。


いつものからかうような笑顔…

意地悪そうな表情…

でも今日はその中に優しさも感じるような気もする。




「うん」

「何で?昼休みくらいまでしてなかった?」

「…実は…ニキビが出来ちゃって…」


あごにできた赤く腫れたニキビを指差す私。





「…ぷ」

「笑わないでよ…すごい痛いんだから」


昼休みくらいからなんかあごの辺りが痛いなっと思って見たら、結構大きいやつが出来ちゃってて地味に痛い…





「なるほどね」

「べ、別にマスクしてないからってキスのことは関係ないからね!」

「…あれ?お前からキスのこと言ってくるなんて……もしかして意識してた?」


あ゛…またオオカミのドSスイッチを入れるようなフレーズを言ってしまった!




「してないしてない」


首を横に振ると、尾神くんはそのまま私に顔を近づいてくる。とっさに顔を横に背けると、尾神くんは私の耳元に口を近づけた。




「…ちょっとは俺に心開いてくれたって思ってもいい?」

「っ!」


耳元で囁かれたその言葉を聞いて、一気に顔が真っ赤になる。




「聞いてる?」

「き、聞いてるけど…」

「昨日よりは俺を受け入れてくれてるように見えるけど、勘違いじゃないよね?」


悔しいけど…尾神くんの言っていることは当たっていた。

私…今は尾神くんに対しての見方が昨日とは少し変わってるもん。





「わ、わかんないよそんなの…」

「そっか」


尾神くんが私の掴んでる手を離すと、ちょっと寂しい気持ちになった気が…私おかしいよ。





「連絡先教える気になった?」

「え………」


どうしよう…

別に連絡先教えてもいいって思ってる自分もいる。本当にどうしちゃったんだろう…

オオカミマジックにハマってるのかな私…




「委員会って明日までだよな?」

「そうだけど…」

「明日の放課後。あの奥の場所にいるから…連絡先教える気になったら来て欲しい」


尾神くんの口調はふざけているようには聞こえなかった。からかっているとも違う…

真剣かどうかは分からなかったけど、嘘はついていないことはわかった。





「待ってるから」

「ぁ…」


優しい口ぶりで尾神くんは言うと、私の前髪辺りに軽くキスをした。そして私の頭をポンと撫でるとカバンを持って図書室を出て行った。

図書室に1人になった私は、書庫のドアに寄りかかり力が抜けたように床にしゃがみ込む。そしてキスされた前髪を指で触り尾神くんのことを考えていた…



今日のキスは…嫌……じゃなかったな。

嬉しかったともちょっと違うけど、とにかく嫌ではなかった。


明日…あの奥にいるって言ってたけど……どうしよう…

私…行ってもいいって思ってるかもしれない…








翌日


「そっか~妹ちゃんすぐ熱が下がって良かったね」


朝。HRが始まるまでの時間、春子に昨日の妹ちゃんの様子を聞きながら教室でおしゃべり。




「ご心配かけました。昨日すぐにおばあちゃんが来てくれたから、色々世話してくれて助かったよ。今日もおばあちゃんが妹のこと看ててくれてるんだ」

「そうなんだ~一安心だね」

「うん!昨日は委員会押し付けちゃってごめんね!大変だったでしょ?」

「う、ううん!全然!!昨日はあんまり利用する人いなかったし…」


昨日の尾神くんのこと思い出しちゃったよ…




「なら良かった~今日で図書委員の当番とりあえず終わりだね。やっと放課後は真っ直ぐ帰れるよ」

「そうだね」


今日で放課後の図書委員の仕事は終わり。


今日は尾神くんがまたあの場所にいる。


約束?になるのかな…?

とりあえずあそこで待ってるからって言われたけど…

そこに行ったら負け、かな?

行ってみたらからかわれるっていう可能性もある。でも…昨日あんふうに言われたら普通だったら行っちゃうよな…




どうしよう…











「図書室行こう!」

「うん」



その日の放課後。とうとうこの時間が来てしまった。今日1日答えは出ないままぼんやりと過ごしてしまった私。

後ろの席の尾神くんとは、時々目が合う程度で今日は会話はしてない…


本当に今日も図書室に来るんだろうか…

まずはそこからかな。
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