オオカミくんと秘密のキス
尾神くんが図書室に来てから考えればいいや。うだうだ悩んでても仕方ない。

でも…私の気持ちはどうなの?私は…尾神くんの連絡先を知りたいのかな?一番大事なのはそこだよね…

尾神くんのことばっかり考えて、自分のことは全然考えてなかったよ…




「沙世?」

「ん?」


図書室のカウンターの椅子に座り、隣にいる春子が私の顔を覗き込んでいる。




「ぼーっとしてるけど大丈夫?具合でも悪いの?」

「ううん!全然っ」


そうか。もう図書委員の仕事は始まってるんだよね…

このカウンターからは見えないけど、あの一番奥の本棚の裏に…多分尾神くんがいるんだ…


時間が進むのが遅い。春子と話をしても時間があまり経っていない気がする…

何度も時計を見て針はゆっくりと進む…

イライラする。


なんでこんなに時間を気にしてるの?

私やっぱり…尾神くんに会いに行きたいのかな?会って連絡先知りたいのかな?


もっと…

尾神くんのこと知りたいの…?






「もうすぐ16時だね。昨日は1人で委員会の仕事任せちゃったから今日は私が返却の本を…」

「私がやる!」


返却boxに入っている本を取ろうとする春子の手を止め、私は本を奪うように手に取った。




「でも…」

「私本の場所覚えちゃったから早いんだ!だから私やる!春子は戸締りお願いね」

「…そう?じゃあお願いするわ」


春子に言った事はあらがち間違いではなく、返却された数冊の本を私は素早く元の場所に戻した。


もう答えは出ている…

返却の本を戻す作業を自らやって、こんなに慌てながらその作業を終わらせた…


それは早く尾神くんのところへ行きたいってことだよね。

私…やっぱり尾神くんのこともっと知りたいんだよ…



そして足音を立てないように歩き、奥の手前の本棚まで来てみたはいいけど…

緊張するなぁ……どんな顔してればいいんだろ…

でもモタモタしてらんないよね。向こうに春子がいるから早くしないとバレる…


ブレザーのポケットに入ったスマホを握り締め、ドキドキしながら奥の本棚を覗き込んだ。












ぇ……………





覗き込んだ瞬間…私の胸はチクッと痛みを感じた。

奥の壁にもたれかかっている尾神くんの隣に、可愛くて目立つ女子生徒がいた。彼女は尾神くんの腕に手を回して、嬉しそうに笑って話している。







なんだ。

そういうこと……


バカみたい…



その場から離れようとした時、尾神くんがこっちを見て私の存在に気づいた。





「沙っ………」


私は怖くなってその場から走って逃げた。






「終わった?帰ろー」


カウンターに戻ると、戸締りを終えた春子とちょうど行き合う。




「ごめん…急用ができちゃったから先に帰るね」

「え?沙世!?」


私は自分のカバンを持つと、図書室から逃げるように出て行った。






最低



最低!



最低!!!







心で何度もそう叫ぶ。

わかっていたはずだったのに…あんな男チャラいに決まってるのに…


なんで一瞬でも心を許そうとしたんだろう…

私もさっきの尾神くんの隣にいた女子と同じ。悔しい…






「ハァハァ…」


あてもなくしばらく廊下を走っていると、普段あまり来ない校舎まで来てしまった。

ここなら帰りに春子が通ることもない。今は1人になりたい気分…






グイッ


人気のない廊下で立ち止まっていたら、突然後ろから腕を引っ張っられた。振り返ると、そこには息を切らした尾神くんがいた。





尾神くん!?



「離してよっ」
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