オオカミくんと秘密のキス
「…無理。絶対離さねえ」


腕を振りほどこうとしても、私の手首を力強く掴む尾神くんの手は離れてくれない。





「離してっ!嘘つき!!嘘つきオオカミ男!!大嫌い!!!」

「はいはい…」


私の手を引っ張ると、尾神くんは近くにあった教室のドアを開けて中に入ろうとした。





「嫌だ!私入らないから!」

「だったらここでキスすんぞ。すんごいやつ」

「く…」


それは絶対に嫌…

私は仕方なく尾神くんとその教室に入った。そこは使われていない資料室で薄暗くてホコリっぽい…

尾神くんはドアを閉めると鍵をかけて、私に近づいてくる。そして何も言わずに私をただ見下ろしていた。





「何で追いかけて来たのよ…さっきの子とお取り込み中だったんじゃないの?」


当然尾神くんの目は見れない。今は見たくないと言った方が正しい。

私はうつ向きながら口を開いた。





「…そんなわけねえだろ」

「…腕組んで楽しそうだったじゃん」


尾神くんがモテるのは知ってるけど、あんなふうに女子と2人きりでいるのは初めて見た…




「いいか?1回しか言わねえからよく聞けよ。あれはあいつが一方的にしてきただけだ」

「…」


さっき女子といた時の事を言い訳をしたい様子の尾神くんに、私は何も言わずに尾神くんから目をそらす。




「図書室のあの場所で俺が寝てたら、さっきのあの女に起こされた。一瞬お前かと思ったけど…」


本当かな。調子よく嘘ついてるようにしか聞こえないけど……



「時計見たらもうすぐお前の委員会終わる時間だったし、腰をあげたらあの女が俺の腕に絡みついてきた。そしたらちょうどお前が来た」

「ふーん…」

「信じてねえだろお前」


少しイライラした様子で、尾神くんは私のおでこにデコピンしてくる。




「痛っい…何すんのっ」

「本当のこと言ってんのになんだよこのツラは…ムカつくんだよ」


今度は私のほっぺたをびろーんとつねる尾神くん。




「やめてよ~」

「信じろつってんだよ」

「あんた超モテてるから女の子選び放題なんでしょ?だからあんな現場見ちゃったらどうしても信じられないよ」


私がそう言うと、尾神くんはつねっている私の手を離した。




「選び放題って…なんだそれ。本当に俺がそんなことしてると思ってんの?」

「…違うの?」

「するかそんなこと。選び放題って…なんだそれ?誰でもいいから遊ぶみたいなこと無理。俺潔癖なんだよ」


それって…




「潔癖症のこと?」

「…とりあえず適当な女と遊ぶとか…考えただけでも寒気がする。少しでも好意を持っている奴は別だけど」


尾神くんの表情を見る限り、調子のいい事を言ってるようには見えないし…嘘をついているとも思えない。


これが尾神くんなの…?

イメージしてたのと全然違うけど…



すると尾神くんは、隙をついたように私に顔を近づけてくる。



「なっ…何…?」

「さっきあの場所に来たってことは、俺に連絡先教えてくれる気になったのか?」

「え゛…」


嬉しそうな尾神くんの表情は、いつものからかう時の顔に戻っている。

教える気があっただけに、マジで恥ずかしくなり何も言い返せない…





「来てくれて嬉しかったよ。ちょっと自信なかったし」
< 26 / 210 >

この作品をシェア

pagetop