オオカミくんと秘密のキス
隣の席のカップルをガン見していた私に気づいたのか、尾神くんはそばにあったストローで私の頭を叩いた。

テーブルを見ると既に注文した飲み物が来ていて、私は「ごめん」と言って顔を赤くした。


飲み物が来たのにも気づかないくらい見入ってたのか…恥ずかしい…


私はアイスティーの入ったグラスにシロップを入れて、ストローでかき混ぜた。尾神くんは、そんな私をアイスコーヒーをストローで飲みながらじっと見ている。






「何?」

「…謝ることがある」


アイスコーヒーが入ったグラスを置き、肘をつきながら私から目をそらす尾神くん。




「LINEのID聞いといて…何も送らないでごめん」

「え…」


がやがやと騒がしい店内だったが、尾神くんの声はハッキリ聞こえた。


尾神くん…

連絡してないこと気にしてたんだ…




「…聞いたはいいけど何送ったらいいかわかんなくて…気がついたら時間が過ぎた…」


ちょっと恥ずかしそうに言う尾神くんがなんだかかわいく見えた。そんな尾神くんを見てドキッとしてしまう。





「ま、別に俺からの連絡なんて待ってなかったよな」

「そんなことない!ずっと待ってた…」


思わず本音を言ってしまった…穴があったら入りたい…





「ふーん…」


肘をついたまま顔を横に向けてまたアイスコーヒーを飲む尾神くんの横顔は、照れているように見えた…


いつもはドSスイッチ全開で来るくせにこんな顔も見せるんだな…

こういう尾神くんも嫌じゃないな…

むしろ…そんなことされたら好きになっちゃいそうだよ…






「ってゆうか驚いたよ。まさか弟の友達のお兄さんが尾神くんだったなんて」


話題を変えよう。この空気は恥ずかし過ぎる…




「…まさか洋平がお前の弟だとは思わなかった。この前家に遊びに来たけど、苗字までは聞かなかったしな。でもよく見ると洋平とお前の目もとは似てるな」


尾神くんも話に乗ってくれた。ちょっとホッとする。





「そう?隆也くんは尾神くんを小さくした感じだね」

「そうか?」


まさにチビ尾神くんって感じ。隆也くんも高校生になったら今の尾神くんみたいになるんだろうな…





「あれ?そういえば隆也くんて4月に洋平の通ってる小学校に転校してきたんだよね?ってことは…尾神くんて最近引っ越してきたの?」

「いや…俺はずっとこっちに住んでるよ。T川町の辺り」


T川町って…私の家から15分くらいのところだ。





「そうなの?じゃあ中学どこ?」

「小・中は都内の私立に行ってた。隆也も去年まで東京の私立の小学校通ってたんだ…」


尾神くんの表情が一気に曇る。少し話しにくそうな内容だったが、尾神くんは私に話してくれた。





「俺の両親は俺が小3の時に離婚して、慰謝料とか養育費の問題よりも子供の親権で揉めたんだ。親権の事に対してはお互い一切譲らなくて、結局俺ら兄弟は両親に別々に引き取られることなった。俺は母親、隆也は父親に」


尾神くんの表情は更に曇る。私は真剣にその話に耳を傾けた。




「父親は都内に住んでて仕事も忙しい。隆也を引き取ったはいいけど、全然相手してあげることが出来なかった。だからお手伝いさんを雇って、隆也の面倒を全部押し付けたんだ。俺は弟が心配でちょくちょく会いに行ってたけど、日に日に元気がなくなっていって…」


そうだったの…

隆也くんは去年までそんな生活をしてたんだ…




「隆也は都内の私立のいい小学校に通ってたんだけど…家庭がそんなだから学校にも馴染めなくて、ついには精神的にやばいところまできちゃってさ…半分意地になってた親父も最後は降参して、隆也も母親が引き取ることになったんだよ」



隆也くんずっと辛かっただろうな…

まだ小学生なのに精神的にきちゃうなんて、本当にかわいそう。






「最初は学校通わせることも迷ったんだけど、とりあえず私立じゃく普通の公立の小学校通わせてみて様子見ようってことになってさ。そしたら転校してすぐに洋平が家に遊びに来たからびっくりしたよ」


あ、さっき洋平が尾神くんにお礼言ってたのはこの日のことか。




「洋平はすげえいい奴だし、こんな奴が隆也の友達になってくれて本当に安心した。母親に話したら泣いて喜んでたよ…隆也のこと心配してたから」

「そうだよね…」
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