オオカミくんと秘密のキス
尾神くんのお母さんの気持ちになってみたら、すごく安心しただろうな。

最初から隆也くんのことも引き取りたいって思ってたはずだもん。





「母親も仕事で忙しくて毎日家にいるわけじゃないんだ。だから俺も高校は私立じゃなく、近くの公立の高校に行くことにしたんだ。そうすれば隆也の世話出来るしさ」

「そうだったの…」


だから家が近い方なのに小・中って尾神くんの存在知らなかったのか…





「洋平には本当に感謝してる。あいつら趣味とか好みが一緒みたいで気が合うらしいけど、それ以外でも隆也に優しくしてくれるし。出来ることならずっと隆也と仲良くして欲しいよ。ま、洋平にお礼言ったところであいつは意味わかってなさそうだけどな」

「…確かに(笑)洋平は、ただ隆也くんと遊びたいから遊んでるだけなんだと思う。同情とかそういうのは一切ないよきっと…」

「だよな。だけどそういうところが洋平のいいところだよ。さすがお前の弟って感じ」


私を見る尾神くんの目についドキッとしてしまった。





「な、なに言ってんのっ」

「俺はさ…隆也の友達の姉ちゃんがお前だった事と、今日映画館でたまたま俺はさと会った事に…運命感じたよ」


自分の手元を見ていた尾神くんの目線が、ゆっくりと私に移る…その動きはなんだか色っぽく見えてますますドキドキしてしまう。




「お前は…?運命感じなかった?」

「ぐ、偶然でしょ…たまたまだよ」


恥ずかしくて不自然に明るい口調で言うと、尾神くんは何か言いたそうな顔をしてじーっと私を見てきた。





「そ、そういえば尾神くんのご両親て何の仕事してるの?」


また話題を変える私。困った時はこうするしかない!



「医者だけど…」

「え!?すごいお医者さんなの!!?」

「まあな。父親は脳外科医で母親は心臓外科医」

「すごい…」


尾神くんて医者の息子だったんだ…!

両親が医者なんて羨ましいしかっこいいなぁ…





「お前んとこも母子家庭だっけ?遠足の時にそんなこと言ってなかったか?」

「うん、うちもそうだよ。お母さんは雑誌の編集の仕事してるの」

「ふーん…親父とは会ってんの?」

「お父さんは建築系の仕事してて海外出張が多いんだ。だけど連絡はとってるよ」


離婚した原因は、出張が多いお父さんとお母さんとのすれ違いらしいけど。





「母ちゃんが仕事忙しいからお前が家のことやってんだろ?」

「まあね。全部じゃないけど出来る限り手伝ってるよ」

「…んじゃ、俺らって家庭環境も似てるんだな。お互い弟の面倒見てるしさ」


そう言われるとそうだ。私達は家庭環境もお互いの今の役割りもよく似ていた。似てるというか…同じだ。





「また運命感じた…」


嬉しそうに笑う尾神くんを見て、私も少し運命とやらを感じてしまった…

偶然だって思ってたのに…感じちゃったよ……




「照れてる?」

「て、照れてなんかないよっ」

「今照れてるだろ?照れんなって」

「だから照れてないって!」


さっきまで照れてたのは自分のくせに、今はまたドSになってる。

うーん、この人って本当に掴めない。ドSになったりオオカミに変身したり時には照れたり…

どれが本当の尾神くんなの…?
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