オオカミくんと秘密のキス
じゃあ尾神くんの看病をしてくれる人は、今日は隆也くんしかないのか…あとは自分でやるしかないわけね。






「本当は今も家でお兄ちゃんの世話した方がいいと思ったんだけど…さっき一旦帰った時に、お兄ちゃんが『俺のことは気にしないで遊んで来い』って言ってくれたから洋平んちに来ちゃったけど、やっぱり心配だな…」

「隆也くん…」


そうだよね。お母さんも帰って来れないんじゃ心配するよね…

それに隆也くんだって今夜の夕飯はどうするつもりなのかな…





「隆也くん。ホットケーキ食べたら隆也くんのお家にお邪魔していいかな?私が、お兄ちゃんと隆也くんのご飯作りに行ってあげるよ」

「え、本当?」

「うん!今日はね…洋平のお母さんも仕事で帰って来るの遅いんだ。だから隆也くんさえ良かったらお家のキッチン貸してくれると嬉しいんだけど…ついでに、私と洋平も夕飯食べて帰ってもいいかな?」

「うん!もちろんだよ!」


尾神くんのお見舞いに行きがてら、夕飯作って尾神くんの家で食べさせてもらえばいいか。

そうすれば尾神くんの看病も出来るし、隆也くんと私達の夕飯の心配もない。それに隆也くんも洋平と一緒だったら、お兄ちゃんが具合悪くて遊べなくても退屈しないだろうしね!





「え?どーいうこと!?隆也はもう帰るってことなの??」

「違うよ。これから隆也くんちに私達がお邪魔するの」


洋平がかき混ぜてくれた生地を受け取り、私はさっとフライパンでホットケーキを焼いて弟達に出した。

今日は夜まで遊んでいられると知って、洋平と隆也くんはホットケーキを食べながらはしゃいでいる。私はその間に制服から私服に着替えて支度をして、後片付けをしたあと3人でうちを出た。

さっきスーパーで買った食材を持ってきたが、予定が変わった為またスーパーで食材を買い足したあと3人で尾神くんの家に向かった。私の家のアパートから徒歩15分くらいの場所らしく、私よりも何歩か先を歩く洋平と隆也くんに私はついていく。





「ここだよ」


え…………





隆也くんが指差した家を見て、私はあんぐりと口が開いてしまった。

大きな敷地に立派な門構えを開けると広い中庭があり、目の前には西洋を感じられるような立派な家が立っていた。それに奥に見える車庫には、高そうな車が止まっていて私でもそれが外車だとわかる。




医者ってやっぱりすごいんだな…

こんな家に住めるんだもんね…ここまでおおきな家に来たの生まれて初めて…洋平の奴よくすんなりとお邪魔できたな…それに失礼なことしてないでしょうね!?





「入って~」

「おう!」


持っている手さげカバンから鍵を出す隆也くんに、洋平は動じることなくついていく。私は不自然な歩き方をしつつも2人を小走りで追いかけた。






「あれー?またこんなの置いてあるぞ??」


洋平は玄関の隅に置かれていた、数個のかわいらしい紙袋や箱の見つけた。


これって…もしかして…





「ああ~それは兄ちゃんへのやつだ」


隆也くんは玄関の鍵を開けたあと、その紙袋や箱を抱えて家の中へ入る。




「おっじゃましまーす!」

「お、お邪魔します…」


素早く靴を脱いで家にあがる隆也くんと洋平は、走ってリビングへと行ってしまう。一歩出遅れた私は脱いだ靴を洋平の靴と広い玄関の隅に並べ、ゆっくりと家の中へ足を踏み入れた。

高い天井に長い廊下…どれも新築のようにとてもきれいでそれにいい香りがした。





「早かったな…」

「うん!兄ちゃん具合はどう?」


尾神くんが隆也くんと話す声がする…リビングにいるのかな?

私は足音を立てずにリビングに近づいた。




「心配すんな…」

「風邪には梅干しがいいってばあちゃんが言ってから買ってきたぞ!」

「サンキュー洋平。あれ?なんで洋平がいんだ?」

「ああ!あのねー今日はねーなんと!姉ちゃんが隆也んちでご飯を作ってくれるんだってさ!」

「え…」


洋平の言葉に、尾神くんが声を詰まらせたのが聞こえた。私がリビングに入ると、ソファーの近くにいた洋平と隆也くんがこっちを向く。

そしてソファーからガバッと起き上がり、ボサボサの髪に寝起きのような顔をしてこっちを向いた尾神くん。その表情はすごく驚いていた。





「き、来ちゃった…具合どう?」

「………隆也てめえ!沙世が来るなら連絡しろよっっ」
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