オオカミくんと秘密のキス

見ないで…

「暑ーい…」

「暑いねぇ」


6月上旬。

日に日に陽気は暑くなっていって、制服も衣替えの時期になった。4時間目の移動授業中、私は春子と渡り廊下をダラダラと歩いている。





ポン


すると後ろから頭を軽く叩かれ振り返ると、そこには凌哉くんと柳田くんがいた。





「……」

「な…何か言ってよ!」


凌哉くんは特に何も言う事もなく、柳田くんと私達を通り過ぎて行った。



ったく…用がないなら叩くなっつーの。


前を歩く凌哉くんを見ながら心の中でブツブツ言う私。






「…沙世と尾神くんて…付き合ってるの?」


隣にいる春子が軽い口調で口を開く。





「つつつ、付き合ってないよ」

「えー嘘ぉ!そんなふうに見えないけどな~」


そう言われるとちょっと嬉しいけど、本当にまだ付き合ってるわけじゃない…

あれから私達の関係は特に変わりはなく、今まで通りの友達以上?の関係だった。学校では毎日会話をする事が当たり前になっているし、頻繁に連絡も取り合っている。時々2人でお昼を食べたり、休日は弟達を交えて遊んだりという感じ…

変わった事といえば…凌哉くんが私にキスをして来なくなったことくらい。

私が『尾神くん』から『凌哉くん』と呼び方が変わったくらいから、唇は愚か頬にさえキスはしてこない凌哉くん。付き合っているわけじゃないからそれが普通なのに、私はそれが少し寂しかった…


キスされてた時は怒ったりしてたくせに、してこなかったら寂しく思うなんて…私って勝手だなぁ。

ま、元はといえば凌哉くんが順序の違う事をしてきたからなんだけど…


目の前の凌哉くんの背中を見てモヤっとしたり怒ったりと忙しい。そんなことをしていたら理科室に着き、私と春子は適当に空いている椅子に座った。





「実験をやるので4人1グループの班をつくってください」


道具を抱えて教室に入ってきた理科の先生が、生徒達にそう声をかけた。私と春子は顔を見合わせてキョロキョロと周りを見渡す…





「尾神くん!一緒にやろうよ♡」

「柳田くんも~♡」


後ろ側の席に座る凌哉くんと柳田くんは、クラスの目立つ女子2人に誘われている。




「別にいいよ。な?凌哉?」

「…ああ」


む。



「やったぁ!」

「あそこの席に座ろ~」


女子2人に腕を引かれて、凌哉くんと柳田くんは窓側の席に4人で座る。




なにあれ…

ちょっとムカつく…



若干イラッとした私は口を尖らせてフンっと前を向く。凌哉くんと同じグループになった女子の高笑いが耳について、余計にイライラした。






「萩原さーん」

「…ん?」


組んでいる足が自然と貧乏ゆすりをし始めた時、明るいトーンで私を呼んだのは…遠足の時に同じグループになったあのタラコちゃんとメガネちゃんだった。




「良かったらグループにならない?」

「いいよ!なろう!あ…春子はいい?」


隣にいる春子に一応確認すると…春子は笑って2人に自己紹介をした。





「いいよ~私春子!よろしくね」

「よろしく!私は多美子(たみこ)!タミコでもタミーでもなんでも呼んで」


タラコちゃんの本名は多美子ちゃんだったのか!タラコと一文字違いだわ。



「私は寧々(ねね)と申します。ネネって呼んで下さい!」


メガネちゃんは寧々ちゃんか。可愛らしい名前だな~

多美子ちゃんと寧々ちゃんは、理科室の4人掛けの机に私達と向かい合わせに座った。






「最近暑いよね」

「梅雨だしジメジメしますよね」

「本当本当」


私達4人は教科書をうちわのようにして、パタパタと扇ぎながら話す。





「梅雨時は洗濯物が乾かなくてねぇ…」

「多美子ちゃんは洗濯やるの?」


春子の質問に多美子ちゃんは胸を張って続けた。






「やるわよ~お母さんよりも私の方が畳むのうまいし早いわよ」

「あはは」


多美子ちゃんの言い方が面白くて、凌哉くんの事でモヤモヤしていた事は忘れてしまう。





ポン


「痛っ…」


また後ろから頭を叩かれ振り返ると、凌哉くんが無表情で立っていた。




「っ…!」


なんだか恥ずかしくなってしまい、私なんとなく凌哉くんから目をそらす…

さっきまでモヤっとしてたけど、また凌哉くんにちょっかいだされて嬉しくなってるよ私…
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