オオカミくんと秘密のキス
カバンを預かると寧々ちゃんは急いでトイレに入って行き、私はトイレの外の手洗い場の横に立ちスマホを眺める。



せっかく仲良くなったんだから、寧々ちゃんと多美子ちゃんにあとで連絡先聞きたいなぁ…

今度4人で遊んだりしたいし♪あ、2人共どこに住んでるのかな?後で聞いてみよ~







「萩原さーん」



え…


下をうつむいてスマホをいじっていたら、近くで誰かに名前を呼ばれ顔を上げると…そこには同じクラスの女子2人がいて私を怖い顔をして見ていた。


この2人…さっき凌哉くんと同じ班だった子達だ…





「…なにか用?」


恐る恐る口を開くと、女子の1人が眉間にしわを寄せ私に近づいてくる。




「萩原さんて…尾神くんと付き合ってんの?」

「…っ!」


鬼のような顔をして言うその女子にビビる私。もう一人の女子は後ろで腕を組んで私を睨んでいる。



なんでこんなことを、この人達に聞かれてるんだろ…

この2人は凌哉くんの事好きなのかな?






「……付き合って…はないんだけど…」

「けど?」

「えっと……」


どうしよう…

ここは正直に言った方がいいのかな…






「彼女でもないくせに尾神くんにベタベタするのってどうなわけ?超軽い女」

「尾神くんに仲良くしてもらってるとか思ってんなら、それ勘違いだから。芸能人並のレベルの人なんだからその辺の女と適当に遊んでるだけだよ」


2人のその言葉に胸がズキズキ痛む。


そんなこと…違うってわかってるはずなのに、どうしてこんなに不安になるの?

今まで凌哉くんが私にしてくれたことは全部遊びだったの…?






「それ伝えたかっただけ~萩原さんが尾神くんに遊ばれてるって気づいてなかったらかわいそうだなって思ってさー。きっとたくさんの女子と遊んでるはずだよ」

「そうそう!尾神くんの事好きならファンでいる事をオススメするよ。てゆうか、私らもファンだから気安く尾神くんに近づく萩原さん見てるとムカつくんだよねー」

「キャハハハ」


笑いながら私から離れていく女子2人に、私は肩にかけているカバンの取手を握り締めて唇を噛み締めた。



あの2人の言っている事を全て間に受けたわけじゃないけど…

今はすごく悲しい気分…


凌哉くんを信じてるのに…私を好きだと言ってくれて私と向き合おうとしてくれてる凌哉くんを信じたいのに…

あんな2人は頬っておけばいいのに…どうしてこんなに…不安になってるの…




キィ…


「沙世…ちゃん…」


トイレから寧々ちゃんが出てきて、私はとっさに笑顔をつくり何事もなかった顔をした。




「食堂行こうか!はいカバン~」

「…大丈夫ですか?」

「っ!」


預かっていたカバンを返すと、寧々ちゃんは心配そうに私を見ている。




「もしかして…今の…」

「ごめんなさい。あの2人の声が大きくてトイレの中まで聞こえてました」

「そう…」

「気にすることないですよ。あんなの間に受けちゃダメです」


目をそらす私に寧々ちゃんは優しい口調でそう言った。

長くてきれいな黒髪を三つ編みして赤いフレームの眼鏡をしている寧々ちゃんを見て、なんだか落ち着いている自分がいる…





「うん、ありがとう。大丈夫…本当に気にしてないよ。でも…春子と多美子ちゃんには内緒にしてもらってもいい?心配かけたくないの…」


春子に知られたらブチ切れそうだからという理由もあるけどね…逆に春子と一緒にいる時じゃなくて良かった。





「…わかりました」

「ごめんね…ありがとう。行こうか」

「はい…」


私と寧々ちゃんは食堂に向かった。あまり会話はなかったけれど、寧々ちゃんが私に寄り添ってくれているような気がして心強かった。

食堂に入り席を確保するとちょうど春子と多美子ちゃんも来て、私達はお昼を食べ始めた。


モヤモヤが止まらない…

おかげでご飯の味がしなかった。









「アハハ」

「なにそれー」


昼食後。4人でジュースを飲みながらお互いの事をおしゃべりしている。新しい友達が加わると、会話は止まることなくずっと盛り上がってる状態だ。

みんなの話を聞きながら、頭の片隅ではさっきのあの女子達に言われた言葉がグルグルと回っている…
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