オオカミくんと秘密のキス
「沙世」


後ろから私を呼ぶ凌哉くんの声がする。胸はいつもとはまた違うようにドキッと鳴り、私は少しためらいながら後ろを振り向いた。





「ちょっといい?」

「……あ、えっと…」


正直…今は凌哉くんと会いたくなかったな。勝手にあの2人に言われた事で落ちてるくせに、こんなこと思うなんて私ってひどいよね…





「ほら未来の彼氏が呼んでるから行っといで~」

「そーだそーだ♪」


はしゃぎながらからかう春子と多美子ちゃん。ちらっと寧々ちゃんを見ると、複雑そうな顔をして私を見ていた…



今は本当にやめて欲しい…

もしかしたらあの2人に見られてるかもしれないのに…いや、あの2人だけじゃなく凌哉くんのファンはこの学校にたくさんいると思うから、どこでファンに見られてるかわからない…





「何してんだ?ほら…」

「あっ…」


凌哉くんに腕を掴まれ引っ張られて、私は食堂の端に連れてこられた。



凌哉くんは何も悪くないのに…気まずいな。

話しかけられて嬉しいのに凌哉くんの事少し疑ってる自分がいる。





「今夜俺んちで飯食わないか?お袋がお前に会いたがっててさ。お前の母ちゃんも誘って良かったらって言うんだけど…どう?」

「…凌哉くんのお母さんが?」


嬉しそうに言う凌哉くんの顔は嘘をついているようにはとても見えないし、いつもの変わらない凌哉くんだった。




「あの…えっ、と………」


どうしようか迷っていると、近くから私を怖い顔で睨むさっきの女子2人が目に入って来る。2人は私を見てヒソヒソと話していた。



嫌だ…怖い……




「ご、めん…今日は用事あって」


嘘をついた。凌哉くんに嘘をつくのは初めてかもしれない…






「そうなのか?珍しいな。なんの用事だ?」

「ごめん!」

「お、おい沙世!」


逃げるように凌哉くんから離れた私は、春子達のいる席に戻り自分のカバンを手にも持つ。




「どうしたの?」


雑談している最中に私の行動を見て、春子達は不思議そうな顔をしてこっちを見る。





「ちょっとトイレに…」

「そっか~うちらここにいるからいって来な♪」

「…うん」


私はそこから走って食堂を出て、近くの女子トイレに逃げ込んだ。そして個室のトイレに入りドアにしばらくもたれかかっていた…
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