オオカミくんと秘密のキス
“個人面談”の言い方が怖い…


後ろを向いている男子達も凌哉くんに怯えていると背中が語っていた。前を向いている女子達に至っては、皆凌哉くんを見て顔が真っ青になっている。




「なら質問を変える。この写真を作った犯人…名乗り出ろ。このクラスの誰かって事はわかってるんだよ」


凌哉くんのその質問で教室の中の空気が変わり、クラスメイト達それぞれの心がざわつきだしたのがわかる。



この中に犯人がいるってこと…凌哉くんもわかってるんだ…

私も確証はないけど誰がやったのかはもうわかってる…


ちらっとあの女子2人を見ると、ブルブルと震えて今にも倒れそうなくらい青ざめた顔をしていた。





「名乗り出るなら今だぞ?しらばっくれてこの場を切り抜ける気でいるなら、俺は容赦しない」


黒板に貼られた写真を全て剥がし、チョークで書いてあるらくがきも凌哉くんは全部黒板消しできれいに消してくれた。






「…名乗り出ねえか」



しーん…





バンッッッ!



凌哉くんが黒板消しを強く置くと、私を含めたクラスメイト達は全員ビクッと震える。





「あ、あの…」

「…私達が…やりました」


すると半泣き状態であの女子2人が凌哉くんに近づき、恐る恐る自拍する。意外にもあっさりと名乗り出た2人だったが、凌哉くんのこの迫力を前にしたら当然の事だ。

凌哉くんはゆっくりと振り返ると、ものすごい冷たい表情で女子2人を見下ろす。

この2人が犯人だと改めて知った私はまた心が痛くなり、また涙が溢れだした。二度傷つけられたみたいですごく悲しくなった…





「ごめんなさいっ…」

「すみませんでした!!」


必死で謝る女子2人はついに泣き出してしまっている。凌哉くんは眉をしかめ口を開いた。





「謝る相手が違うだろ」


凌哉くんのその言葉に女子2人が泣きながら私に近づき「すみませんでした」と頭を下げてきた。

私は返す言葉がわからず、何も言わずに目をそらすしかできなかった…






「残念…女だから殴れねえな」


女子2人に後ろから近づく凌哉くん。この顔と口調は、本気で怒っているんだとまだ付き合いが浅い私でもなんとなくわかる。

私の方を向いていた女子は凌哉くんの方を振り返り、下をうつむきながら泣いていた。





「だからやめようって言ったでしょっ」

「は?あんただって乗り気だったじゃん!」


2人は急にお互いを責め出して仲間割れをし始める。それを見た凌哉くんがイライラした様子で声を荒らげた。






「るせーんだよ」

「りょ、凌哉!」


ガンっっ



近くにある教卓を思い切り蹴る凌哉くんを見て、後ろを向いていた柳田くんがさすがにヤバイと思ったのか止めに入った。





「今後沙世に近づいたら女だからって容赦しねえからな」


低い声で言う凌哉くんの言葉に2人は泣きながら何度もコクコクと頷いた。




「俺は今はまだ沙世の彼氏候補だけど、沙世の恋人予約は取ってあるから俺の彼女も同然なんだよ。今後沙世に何かしたら許さない…」


凌哉くんはそう言い残すと私の肩を抱いてその場から離れた。そして床に落ちている私のカバンを持つと、私の手を引いて教室を出ていこうとする。





「あ、おはよ………え?何?どうしたの!?」


教室を出る直前。登校して来た春子と多美子ちゃんと寧々ちゃんと行き合い、泣いている私を見て3人は驚いて立ち止まる。

春子達と話したい気持ちはあったけれど、涙が止まらなくて言葉が出てこなかった…




「…悪いけど圭吾に聞いて。俺ら今日は学校サボる」

「えっ…ちょっ…」


凌哉くんは春子に一言そう言いうと、そのまま止まる事無く無言のまま歩いた。私は凌哉くんのYシャツを頭にかぶったまま涙を手で拭き、ただ凌哉くんの手を握っていた…








ヒュゥ…


凌哉くんとやって来ったのは屋上で、私達は屋上の隅のコンクリートの段差に腰掛けた。

凌哉くんは私が泣き止むのを待っててくれているのか、黙って隣にいてくれている…
< 68 / 210 >

この作品をシェア

pagetop