オオカミくんと秘密のキス
登校するなり私に近づいてくる凌哉くん。その後ろには柳田くんもいて、春子に話しかけて2人は楽しそうに話し始めていた。

私はそれを横目で見たあと、私の席の目の前に来る凌哉くんをそっと見上げた。







「昨日は早めに寝たの?」

「え?」

「LINEしたけど返事なかったから」


私から連絡がなかったから心配していたのか、凌哉くんの表情はいやに真剣な顔だ。






「うん…ごめんね……昨日ははしゃいじゃって疲れたみたいで早く寝ちゃったんだ…」


また嘘をついてしまった。凌哉くんには嘘つきたくないのにな…

凌哉くんに嘘をつくと罪悪感が襲ってくるってわかってるのに、私の口は自然と嘘をついてしまう。







「そっか」


少し安心したように微笑む凌哉くんを見て、胸がチクリと傷んだ。







「本当にごめんね」

「気にすんな」


実はまだスマホの電源を入れてないから、凌哉くんから何てLINEが来てたのか知らない…

知りたいような知りたくないような…今は凌哉くんから何か積極的な事をされてもモヤっとするだけかも。妃華ちゃんのことが頭に浮かんでイライラすると思うし…





「あ、そうだ。隆也が洋平んちに泊まりたいって言ってた」

「…そう…いつでもおいでよ。洋平も喜ぶし」

「また貞子やるかもな」

「あはは」


普通に振舞うことが普通なっていく…

内心は全然普通じゃないのに…それも嘘をついているのと一緒だ。




イライラする


モヤモヤする




凌哉くんが私に笑顔で話しかけてきても、連絡をくれても…

頭に妃華ちゃんが浮かんでしまう…






「今度貞子やったら写メ撮って。見たいから」

「いいよ。でも家でもできるんじゃないの(笑)?」

「あいつ家だとそういうバカげたことしないんだよ。でも寝相だけはすごいよ。いつもこんな感じで寝てる」


凌哉くんはポケットからスマホを出して、隆也くんが寝ている写メを見せてくれた。

昨日中華街でお互いにやったガチャガチャのパンダストラップが凌哉くんのスマホについているのを見て、正直嬉しい気持ちよりも複雑な思いが私の中で先に芽生えた。



凌哉くんと妃華ちゃんを疑っているわけじゃない。

2人は本当に幼馴染みというだけで、それ以上の関係はない事くらいわかってる…


凌哉くんの私に対する気持ちを疑ってるわけでもないの…自惚れてるとかじゃなく、凌哉くんが私の事を好きでいてくれているのもわかる。だけど…



ちゃんと凌哉くんと付き合うことになったら、私は妃華ちゃんを見るたびにいちいち嫉妬することになるんだろうか…

2人が挨拶のように抱き合うあの姿を見て、いつも普通にしていないといけないのか…


そう思うと…

凌哉くんに告白なんてできない。



凌哉くんの彼女になる自信がない…

こんなヤキモチ妬きの私となんかと付き合ったって、うまくいきっこないよ…

だったら今のままでいい。私も凌哉くんの事が好きだということは隠したまま、密かに両想いでいた方がうまくいく。…

今の2人の関係を壊したくない…








だから私は…

凌哉くんの彼女になる事を諦める…


そうするのが一番いい…

それでいいんだ…
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