オオカミくんと秘密のキス
「補習になりたくなかったら俺がみっちり勉強教えてやる」


ヒソヒソと話す凌哉くんは、なんだか私の事を見透かしている様子。


私が平均点より下の点を取ることにビビっていることや、明日の勉強会に行くことも迷っているって勘づいてるのかな…





「…どうする?」

「ぅ…」


フフンと鼻で笑う凌哉くん。私は頭の中で瞬時に色々と考えた…



私の周りで数学が得意な人はいない。春子も苦手だし多美子ちゃんと寧々ちゃんも嫌いと言っていた気がする…

ということは、私の周りで数学ができる人は凌哉くんしかいないんだ。平均点を取るには凌哉くんに教えてもらうしか道はない…

ここは妃華ちゃんと会いたくないとか、もうそんなことは言ってられなくなってきたのかも。





「…私に数学を教えて下さい……」


ペコリと頭を下げた私の顔は魂の抜けたような表情。凌哉くんはそんな私を見て嬉しそうに笑うと、私の頭をくしゃくしゃと撫でた。


ちょっと憂鬱だけど、凌哉くんと勉強出来るなら嬉しいな…

あんまり妃華ちゃんのことは考えないようにしよう…マジで数学勉強しなきゃだしね。


私は気持ちを切り替えて、いい意味で妃華ちゃんのことは気にしないようにした。


そして翌日。学校は午前中で終わり私は一度家に帰って支度を済ませると、凌哉くんが家まで迎えに来てくれて、2人で妃華ちゃんと待ち合わせをしている駅に向かった。


凌哉くんと話しているのはすごく楽しくて幸せなんだけど、これから妃華ちゃんと会うんだと思うと緊張するな…

凌哉くんと妃華ちゃんがベタベタする所を見たくないという事以前に、私妃華ちゃんに好かれてないしね。

この間偶然会ったときも、凌哉くんが私との関係を話したらすごい顔をで私のことを睨んできたし…

だから会いたくないっていうのもあるかも。妃華ちゃんは私に会いたいって言ってたらしいけどそれは本当に謎だな。






「凌哉ぁ~♪」


待ち合わせの駅の前の信号を渡っていると、ちょうど改札から出てきた妃華ちゃんが凌哉くんに気づいて手を振ってくる。





「妃華」


凌哉くんは私の手を掴むと小走りで走り始め、妃華ちゃんに近づいた。そして妃華ちゃんが凌哉くんに抱きつくと、凌哉くんは掴んでいた私の手を離し妃華ちゃんをぎゅっと抱きしめた。





「こっちに来てもらって悪いな」

「いいのいいのー!私から誘ったんだし、それに帰りはお母さんが車で迎えに来てくれるって~」


抱き合いながら会話する2人を見て、私は目をそらして気を紛らわした。

妃華ちゃんに会って早々嫉妬してる…こんなことわかってたはずなのにどうして嫉妬してるんだろう。





「あ、沙世ちゃん…だよね?急に誘ったりしてごめんね!ゆっくり沙世ちゃんと会いたかったんだ~」


凌哉から離れ、私にニコニコしながら近づいて来る妃華ちゃん。私は笑顔を引きつらせながら「私も…」と言った。





「とりあえず飯食おうぜ。腹減った」

「そうだね~どっかオススメのところないの?」


力ない声をだす凌哉くんの腕にしがみつく妃華ちゃんを目の前にして、私は2人の後ろを1人で歩きお店を探した。

まるで恋人同士みたいな2人を前にして、私は何やってるんだろうと思っていた…


やっぱり来るべきじゃなかったのかな…

仲のいい2人を見るのが嫌なだけじゃなく、ちょっとしたことで嫉妬をする小さい自分が嫌になるから来たくなかったっていうのもあるのかもしれない。


妃華ちゃんと会うたびに自分が嫌いになっていく…凌哉くんの彼女になる事が、私にはふさわしくないんだって思い知らされるようだ…

その度にいちいち傷ついてへこむ…それの繰り返し。









「ごゆっくりどうぞ」
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