オオカミくんと秘密のキス
すると、ひじをついてスマホを見ていた妃華ちゃんがボソッとそう言った。さっきまでニコニコしていた妃華ちゃんの表情は、無表情で怖い。


やっぱり…あの公園で見た妃華ちゃんの怖い顔は見間違いじゃなかったんだ…

私は特に返事を返さなかったが、警戒するように妃華ちゃんを真っ直ぐと見つめた。





「…凌哉が女とテスト勉強かぁ……ついこの間までそんなこと有り得なかったんだけどなぁ…」


スマホに目を向けながら、ため息交じりで言う妃華ちゃん。声のトーンは低く完全に私を敵として見ているのがわかった。





「…あんた何者?」

「…っ!」


ジロりと私を睨む妃華ちゃんはとても怖かった。だけど私は冷静な心を保つよう心がける。




「凌哉はさぁ…潔癖で誰とも付き合った事ないの。女と軽々しくキスしたりとかそれ以上の事出来ないんだって。…ま、それ以前に心を許した女以外に近づくのも基本的には無理」


ドリンクバーにいる凌哉くんをチラチラと気にしながら言う妃華ちゃんは、とても凌哉くんのことをわかっていた。

それが少し悔しくてまた嫉妬してしまう。





「今までは幼馴染みの私にだけ心を開いてくれてたの。凌哉にとって女の子で特別なのは私だけ。私にだけだったのにっ……急にあんたが現れた……マジでなんなの?」


妃華ちゃんの視線は私を邪魔だと言っているようだった。ずっと黙っていた私だったが、私はようやく口を開く。





「…妃華ちゃんは…凌哉くん事が好きなんだね…」


幼馴染みとしてだけじゃなく、凌哉くんに恋愛感情を持っているように聞こえるから…




「さすが凌哉の事好きなだけあるね。勘がいいわ…そうよ、私は凌哉が好き。小さい頃からずっとね」


子供の時から好きなんだ…だったら尚更、私のことを邪魔だと思うよね…




「今は凌哉は振り向いてくれなくても、いつか凌哉には私しかいないんだって気づいてくれる気がすると思ってたのに…」


小刻みに震えながら唇を噛み締める妃華ちゃん。




「私は認めないから。あんたみたいな女…凌哉にふさわしくない…」

「…」


妃華ちゃんのその言葉が胸を刺して、返す言葉もなく私は黙り込んでしまった。




「凌哉に目を覚まさせてやるわ。あんたなんかよりも私の方が自分の彼女にふさわしいってね♪あんたと凌哉の仲を邪魔してやる」


鼻歌交じりで言う妃華ちゃんを見て、私はどん底まで気持ちが沈んだ。それと同時に改めて凌哉くんと自分はやっぱり釣り合わないと思った…

それに妃華ちゃんに勝てる気がしない…






「お待たせ」


するとドリンクバーで飲み物を取りに行ってくれていた凌哉くんが戻って来て、私の手元に飲み物が入ったグラスを置いた。




「トロピカルティーだって。お前紅茶好きだろ」

「…う、ん。ありがとう」


凌哉くんと普通に会話しようとしてもどこかぎこちない。笑顔もうまくつくれない。






「やっぱり計算解けてねえじゃん」

「え…」


私の座っているソファーの隣に座って来る凌哉くんは、開いているノートを覗き込んできた。

ちらっと妃華ちゃんを見ると余裕のある笑みを浮かべて、テーブルにひじをつきながら私をじっと見つめていた。



幼馴染みである以上、凌哉くんと私がちょっとくらい近づいても何とも思わないのかな…

どんなに私が凌哉くんと接近したとしても、長い付き合いの2人には一生かなわないし…
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