オオカミくんと秘密のキス
「…っ!」


そう思うと、とうとう私の目から涙が溢れ出す。凌哉くんの前で泣くのはダメだと思ってたけどもう止まらなかった…






「ーー…だよな?……沙世?……聞いて……っ?何泣いてんだ?」


泣いてる私に気づいた凌哉くんは、慌てた様子で私に駆け寄ってくる。私は人気の少ない住宅街の道で立ち止まって、その場で声を殺して泣いた。





「沙世…?どうした?」

「うぅ…くっ」


凌哉くんには私が泣いているわけがわからないんだ…だったら尚更私達は付き合わない方がいい。

私達は違い過ぎる…






「もう…凌哉くんとは会えない…」

「え?」


突然なに言ってんだろ私…どうしよう、口が勝手に動くよ…




「ごめん…やっぱり私達は…釣り合わないよ……」

「なに言ってんだよお前…」


さっきまで明るく話していた凌哉くんの口調が、低くて少し怖い口ぶりに変わる。





「今までの事は全部忘れるから…凌哉くんも忘れて…」

「…」


急にこんなこと言われたら困るってわかってるのに、どうしても止まらなかった。凌哉くんが力強く掴んでいる私の手首を、私は振り払うようにほどく。





「もう…凌哉くんと会いたくない…」


泣いてかすれた声を出してそう言うと、凌哉くんは悲しそうな顔をした。そしてズボンのポケットに手を入れると、そっと口を開いた。





「…意味わかんねえよお前」

「…」


そうだよね、わかんないよね…

でも私は凌哉くんのことがもうわからない…わかりあえてきたような気がしてたけど、それは勘違いだったみたい。






「ごめん…」

「…」


私はうつむいてそう言うと、そのまま怖くて顔を上げることが出来なかった。しばらくすると、凌哉くんは何も言わずに私に背を向けて先を歩いて行った。




「うっ…」


私は凌哉くんの背中が見えなくなると、その場にうずくまって声を出して泣いた。



バカみたい…

あんなことまで言う必要なかったのに…


きっと凌哉くんに引き止めて欲しかったんだ…そんなわけのわからない駆け引きを勝手にして、凌哉くんを失ってしまった…

本当にバカだよ。


でもこれでハッキリしたかな…

やっぱり私達は無理だったってこと…




自分から失恋しちゃった。








私はしばらくその場で泣いたあと、頑張って立ち上がり踏ん張って家まで帰った。

凌哉くんからの連絡はなく、私からもしなかった。そして寝る前に、スマホにつけていたパンダのストラップをそっと外した。
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