オオカミくんと秘密のキス
ベーコンを切る手が止まり、私は寧々ちゃんに目を向けた。



遠足って…この前の牧場に行ったあの遠足だよね…?





「正確に言うと、料理をしている紗世ちゃんを尾神くんがずっと見ていたから、羨ましいと思ったんです…私もあんなふうに男子から見られたいって思って…」

「ええっ!凌哉くんが私の事を見てたの!?」


全然気がつかなかった…

その頃は、まだ凌哉くんのことあんまり気に止めてなかったしな……





「見てましたよ!まるで彼女を見るような眼差しでした…♪私はそれを見て、自分も彼氏…いや!好きな人が欲しいなと思ったんです!その為には、まず自分を磨かないとですよね!」


寧々ちゃんはそう言ってガッツポーズをした。すっかり恥ずかしくなった私は、ベーコンを切りながら顔を赤くする。



彼女を見るような目で…凌哉くんが私を見てたなんて…

どんな顔をしてたのか見てみたいかも…


でも、今は彼女になれたどころか最悪に気まずいことになっちゃってるから、遠足の時はそうだったとしても結果としてはダメだけどさ…






「私は…紗世ちゃんと尾神くんのようなカップルになりたいんです。すっごく憧れます!」


鍋から湯気が出てくると、寧々ちゃんは鍋の中に塩をひとつまみ入れる。






「そんな…私なんて憧れる要素ひとつもないよ~それに私と凌哉くんカップルじゃないしね」


自分でその言葉を口にすると、本当に落ち込んで来る。上から大きな岩が頭に落ちてきたようだ…






「尾神くんとはきっとわかり合えますよ…というか、わかり合って欲しいです。2人のカップルを間近で見たいです!もっと羨ましいって思わせてください!」

「…寧々ちゃん」


私なんかに、どうしてここまで言ってくれるんだろう…なんだか嬉しすぎて泣きそうになってきたよ。






「大丈夫ですよ!きっと最後はうまくいきますよ」

「ありがとう」



うまくいくのかな…

私か凌哉くんのどっちかが動き出さない限り、私達はこのまま進展しない気がするな…

今は私から動く気にはなれない。そんなこと、とても怖くて出来ないよ…






「パスタ入れますね」


切ったベーコンを小さいボールに入れてぼんやりと考え事をしていたら、寧々ちゃんはパスタの束を出した。




「あ、うん!じゃあ、私はカルボナーラのソースつくちゃうね」


私は冷蔵庫を開けて卵や生クリームを出して、寧々ちゃんとソースを作った。凌哉くんを忘れるかのように無駄にてきぱきと動いたけど、考えないようにすればする程考えてしまう自分がいた。




寧々ちゃんがここまで言ってくれたのに、私はどうして動けないんだろう…

遠まわしに私の背中を押してくれたのに、どうしてこんなに怖いの…?


凌哉くんの彼女になる自信がない…

付き合っていくのが怖いなんて、すごく贅沢な悩みだよね…


みんなは私のことを味方だと言ってフォローしてくれたけど、心のどこかでは内心呆れてるんだろうな…

私もこんな自分嫌だもん…





大っきらいだよ…














「はぁーもう疲れた!ちょっと休憩しようよー」


数時間後。昼食を食べたあと、4人で教科書とノートを開いて勉強を始めた。春子が床に仰向けに倒れ、体をぐーんと伸ばす。

さすがに私も疲れたと思い、みんな教科書を閉じて休憩することにした。







「寧々ちゃん教えるのうまいから助かっちゃった~勉強苦手とか言ってたけど、超頭いいじゃん」


英語の発音とかも本格的だったし、教え方もすごくわかりやすかった。





「いえいえ!英語は少し出来る方なだけですよ…数学とか本当に出来ないですし!」

「私も数学苦手…」


数学だけじゃなくて、全科目苦手だけどね…得意なのは家庭科くらいかな。

中学のときに授業で裁縫をやった時、先生にかなり褒められた記憶がある(笑)
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