オオカミくんと秘密のキス
チラチラと政宗さんを見ていたら、一瞬ちらっと目が合ってしまった。政宗さんにニコッと優しく微笑むと、また教科書に目を向ける。



本当に優しいな…怖い雰囲気が全然ないよ。凌哉くんと違って。






「数学は解き方を覚えちゃえば簡単にとけるよ。寧々、紙とシャーペン貸してくれ」

「うん」


寧々ちゃんから紙とシャーペンを受け取ると、政宗さんは数学の教科書の適当な問題を紙にさっと書いた。

そのあとは、まるで塾の先生ように数学の数式の解き方を私達に教えてくれた政宗さん。寧々ちゃんの教え方がわかりやすいのは、政宗さんの影響があるからだと思った。

私達4人はより集中力を発揮して、空が暗くなってきた頃にそれぞれ教科書とノートを閉じた。






「本っっ当に助かりました!政宗さんて教えるの上手ですね!!」


帰り際、多美子ちゃんが政宗さんに照れながらお礼を言う。その横顔がとてもかわいくて、微笑ましかった。

多美子ちゃんの言う通り、本当に助かっちゃった…数学が全部理解できたわけじゃないけど、期末テストの範囲ならとりあえず赤点は避けられそうだな…

数学のテスト受けるのに、こんなに自信が持てるのは初めて。






「いいんだよ。俺も女子高生に囲まれて勉強出来て楽しかったな」


政宗さんの言葉にみんなでアハハと笑う。







「いや本当に…今日はちょっと嫌なことがあったから…みんなと楽しく勉強出来て気がまぎれたかな」


私達から一瞬目をそらした政宗さんは、なんだか気持ちが沈んでるようだった…



何かあったのかな…

そんなこと聞けるわけないけど、そんなこと言われるとなんか気になるなぁ…



私達は政宗さんにもう一度お礼を言って、寧々ちゃんの家を後にした。帰り道は政宗さんの話で持ち切りになり、特に多美子ちゃんはかなり政宗さんにハマってしまっているようだった。



政宗さんにじゃないけど、私も今日はかなり気がまぎれたなぁ…凌哉くんのこと考えてる時間が、昨日に比べて少なかった…

だけど、春子と多美子ちゃんと別れるとやっぱり凌哉くんのこと考えちゃう。






凌哉くん…今何やってるのかな…


前はいつもLINEしてたから、何してるかわからないことなんて少なかったのにな…







「話したいよ…」


独り言なんて滅多に言わない私なのに、薄暗い道端で私は1人でそう呟いていた。



それからすぐに期末テストが始まり、毎日テストに追われる日々になった。

学校で凌哉くんと顔を合わせても、日に日に平気になっていく自分がいる…凌哉くんも私から見る限りそんな感じがした。




もう完全に終わった…



そう思うようにもなっていた…









まだこんなに好きなのに…








そしてテストが終わり、凌哉くんと一度も話すことなく今日は終業式。

明日から夏休みだ。
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