オオカミくんと秘密のキス
HRが終わった瞬間、私達学生は夏休みになった。

幸いにも苦手だった数学のテストは赤点をま逃れ、私にしては高得点の54点で私の元に返ってきた。

元々は補習を避ける為に数学の勉強に打ち込んだのに、凌哉くんとこんなことになってしまった今…嬉しい気持ちは半減されてしまった…


これから1ヶ月半、凌哉くんに会えなくなる。1ミリだけあったほんのわずかな期待ももう消えた。

もしかしたら、凌哉くんの方から話しかけてくれるかも…なんてちょっとだけ思ってた。「話そう」って向こうから言ってくれるのを待ってたんだ…



だけど、私と凌哉くんの関係はもう終わった…

これから夏休みになれば顔を合わせることもなくなるし、新学期になったらきっと私達のことはなかったことになる…




夢のような出来事だったんだって思うしかない…

あんなかっこいい人と恋人ごっこをした、いい思い出だったって…今は考えるしかないよね…





「沙ぁー世ちん!これからみんなでお昼食べて、そのあとカラオケ行かない?」


自分の席で荷物を整理してカバンに入れ終わると、後ろから多美子ちゃんに抱きつかれた。





「カラオケ?いいね、行こうか!」

「行こう行こう♪」


ちょうどいいや。歌でも歌ってスッキリしよう!




「何食べる~?」

「やっぱハンバーガーかな」

「駅前に激安のブッフェができましたよね?」


春子と寧々ちゃんも交え、私達4人は2列に並んで教室を出た。そしてしゃべりながら階段を降りて下駄箱に向かっていると、途中廊下で凌哉くんが知らない女子と話している光景を目にした。

一瞬しか見ていないけど、その女子はすごくかわいくて私と違って目立つ系の子。



もしかして、告られてるのかな…

あの女子と話している凌哉くんの表情は、怖くて見られない。



付き合ってるとかじゃないよね…もしそうだとしたら、ちょっとショックかも。切り替え早すぎるし…

私のテンションは地の果てまで下がり、みんなは私を慰めるように振舞ってくれた。





「尾神のヤロームカつく…」

「本当本当。やっぱり顔がいい男ってちゃらいんだね」

「沙世ちゃん大丈夫ですか?」


学校を出てお昼を食べに駅前に向かう道中、元気のない私にみんなが話しかけてくれる。







「大丈夫大丈夫!今日は盛り上がろっっ」


柄にも無く、私は道端で大声を出してしまった。3人は「イエーイ!」と叫び、なんだかとても目立っていた気がある。

その日は駅前のブッフェでランチをしたあと、みんなでカラオケに行きフリータイムで散々歌って踊った。マイクを離さない私を見て、みんなから「顔に似合わない」といじられ倒された私。だけど今日はとても楽しかった。


いいもん。

私には友達がいるだから、もう平気だよ…って言うしかもうないや。






夜7時過ぎ

みんなと別れた私は、ひとり薄暗い夜道をスマホを片手にだらだらと歩いていた。



明日もみんなと会う約束しちゃった♪

…って言っても、また寧々ちゃんちで夏休みの宿題やるんだけどね。


洋服なに着ていこうかな。

あ、なにかお菓子でも作っていこうかな~クッキーとかケーキもいいね。

考えるだけでワクワクしてくる…








「あっ…」


“宿題”という言葉を頭に浮かべると、私はその場で足を止めて立ち止まった。
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