オオカミくんと秘密のキス
「…」

「…」


お互い口を開かない。どう話を切り出していいのかわからないから…

全部私のせいだ。嫉妬だけであんな面倒くさいこと言ったりしたから、こんなことになったんだよ。







「ごめんなさい…」


私は凌哉くんに謝って深く頭を下げた。話をする前に、謝罪することが先だよね…





「いや…謝んのは俺の方だよ」

「え…」


凌哉くんはポケットに手を入れて足を組み直すと、低い声でそう言った。





「どうして…?」


凌哉くんは謝ることなんてないのに…





「何度考えても、お前が何で俺から離れて行ったのかわからなかったから…」

「…っ!」


表情を曇らせる凌哉くん。私はその言葉に正直驚いた…

凌哉くんそんなこと考えてたの…?






「頭冷やして自分で考えてからお前とちゃんと話そうと思ってたんだけど…どうしてもわからなくて時間だけ過ぎていって…気がついたら今日になっちゃってさ……明日から夏休みなのに、お前とこんな状態なんて耐えられないから会いに来た」

「凌哉くん………うぅ…」


目から大量の涙が溢れ出す。





「なに急に泣いてんだ!?」

「ごめんなさいっ、全部私が悪いの…」

「お前は悪くないって。お前が離れてったのは俺のせいなんだろ?それに気がつかなかった俺がいけないんだよ」


優しく言う凌哉くんに、私は首を横に振った。






「私のわがままでこうなったんだよ…私が面倒くさい嫉妬なんてするから、こんなことになっちゃったんだ…」

「嫉妬…?」


凌哉くんの頭には、?がいっぱいになっているように見えた。





「…私……妃華ちゃんと凌哉くんがベタベタするのが嫌だったの…抱き合ったり、ほっぺにキスしたり…いくら幼馴染みだからってそういうのして欲しくなかった…」

「沙世…」


ヒクヒクと泣きながら続ける私。





「凌哉くんと付き合っても、妃華ちゃんと会ったりした時はこれからいちいちヤキモチ妬くことになるんだと思ったら、凌哉くんの彼女になる自信ないって思った…私の嫉妬が理由で喧嘩になるかもしれないし、それが原因で別れるなんてことも絶対に嫌…………だから離れたの…」



やっと言えた。

自分の気持ち…凌哉くんに伝えられた…


また涙が溢れ出す。ずっと凌哉くんと話せなくて辛かったあの日々が、全部消えていくのがわかる…







「沙世…」

「っ…」


凌哉くんに腕を引っ張られて、横から強く抱きしめられた。久々の凌哉くんのぬくもりを感じて、また涙が出る。





「ごめん…やっぱ俺が悪いよ。そんな事に気づかなかったなんて…本当にバカだよな、ごめん…」


凌哉くんの胸の中で何度も首を振る。



たくさん謝りたいのに、涙が止まらなくて声が出ない…




また凌哉くんの胸に戻れた…

嬉しい…嬉しいよ…








「ごめん。お前が妃華のこと気にしてたなんて全然知らなかった…俺にとって妃華は妹みたいなもんだから、隆也と一緒なんだよな。ああゆうことされても、ある意味何とも思わないんだよ」
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