オオカミくんと秘密のキス

「プッ……ハハハハ」

「なに笑ってんだテメェ…こっちはマジで聞いてんだよ」

「痛たたっ」


笑う私を見て怒った凌哉くんは、また私の頬をつまんでくる。





「やめてよ！」

「…」

「…？凌哉くん…？」


私の頬を両手で包み込み、私を真剣な顔をして真っ直ぐ見つめる凌哉くん。

さっきまでつねられていた私の頬が、ポッと赤くなって熱を帯びてくる…私は恥ずかしい気持ちに耐えながら、そっと目をつぶった。

けれど私の唇には一向に何も触れることはなく、不思議に思いながらつぶっている目を開けると、凌哉くんは私を見つめながらニヤニヤと笑っている。





「な、なによっ…」


恥ずかしい…てっきりキスされるかと思って目をつぶってたよ…




「お願いがある…」

「お願い…？」


急に真剣な顔をする凌哉くん。





「“好き”って言って」

「ええっ！」


何を言い出すのかと思えば…思いがけない、とんでもない事を言われてしまった…





「そ、そんなこと言えないよ…」

「なんでだよ…俺の事好きなんだろ？なら言えるはずだ」

「う…」


好きだから言えないということもあると思うんだけどな…









「やっとお前と付き合えるんだから、それくらい言ってくれてもいいだろ。俺はずっと待ってたんだから…」

「…」


すねたように口を尖らせる凌哉くん。


その通りだ。凌哉くんはずっと私を待っててくれたんだから、私からも告白しなきゃ…


すごく恥ずかしいけど…

言わなきゃね…







「え、っと…その………」


凌哉くんの手が私の頬から肩に移り、私の言葉を待っているように私を見つめている。

モジモジと自分の指をいじりながら、必死でなんて言おうか考える…


想いを伝えるんだから、せっかくならロマンチックなことを言いたい。だけど…





考えても仕方が無いんだ。


伝えたいことはひとつだけから……











「好き…です」


ぎこちない口調で一言そう言った。するとまた涙が溢れだした。





「なっ…お前何泣いてんだよ」

「ごめん…もっとロマンチックなこと言いたかったのに…超普通になっちゃった…」


伝えたいことはひとつだけだけとは思ったものの、いざ言葉にしてみるとその短さに凌哉くんに申し訳ないという思いが芽生える。






「バカ…」


泣いている私のおでこに優しくキスをする凌哉くん。私の涙はまるで魔法のようにピタリと止まった…







「充分だよ」


力強く私を抱きしめる凌哉くんに、私の手を回して答える。この瞬間…私達は恋人同士になれたような気がした。

そしてそっと体を離すと、凌哉くんが私の唇を指でなぞる。その行為がすごく色っぽく見えて、かっこよくてドキドキした…







「…っ」


私と凌哉くんの唇が触れる…

そっと触れてから、段々と深いキスに変わっていく瞬間…思わず薄目を開けてしまった。キスをしながら凌哉くんの顔を見ると、更に恥ずかしくなる。





優しいキス…


これがずっと欲しかったの…







ゆっくりと唇が離れると、凌哉くんはハァ～と息を吐いたあと地面にしゃがみ込んだ。







「どうしたの！？」


急に具合が悪くなったのかと思い、私もしゃがみ込んで凌哉くんと同じ体制になり顔をのぞき込んだ。






「やっ…た♪」


凌哉くんは子供みたいな笑顔で笑い、喜びを噛み締めているようだった。その顔を見て、思わずかわいいと思ってしまった私…

こんな顔もするんだな…と、凌哉くんの新しい一面を早くも見られた。