オオカミくんと秘密のキス
しばらく経つと、凌哉くんがスマホの時計を見てポツリと言った。




もう9時か…

時間が経つのってあっという間だな…





「そろそろ行くか」

「…うん」


もう少し一緒にいたかったなぁ…

いや、もう少しじゃなくてずっと一緒にいたいくらいだよ!





「そんな顔してっと、このまま連れ去るぞ」

「えっ…!!!」


顔を上げてみると、凌哉くんがからかうような顔をして私を見ていた。私は「バカ」と言ってごまかしながらも、内心は本当に連れ去られてもいいと思っていた…



好きな人と両想いになれたから浮かれてるんだ私…

こんな乙女チックなこと考えるなんて、恋ってすごいね。





「ほら帰るぞ。お前んちに隆也置いてきちゃったから迎えに行かないと」

「え?隆也くんうちに来てたの?」


差し出してくれた凌哉くんの手を握り、私達は手をつなぎなから公園を出て私の家に向かう。





「ああ。元々は隆也が洋平の家に遊びに行くつーから、俺は付き添って来たんだ。チャンスがあればお前と話したかったから」

「…そうだったの」

「だけど、待てど暮らせど誰かさんが帰って来ないから、待ちくたびれて外でお前を待ってたんだよ。やっと帰って来たと思ったら、知らない男とのツーショット見せられてさ…」


ケッと言って、面白くないといったような顔をする凌哉くん。






「そ、それはさっき言ったでしょ!?あれは寧々ちゃんのお兄さんだってばっ」

「前川の兄貴だろうがなんだろうが、オレにあんなところ見せつけたのは事実だろ。これからは気をつけてもらいたいね。俺、結構嫉妬深いみたいだから」


何故か自信満々で言う凌哉くん。決して正しいことを言っているわけではないのに、私としてはどこか嬉しいと思っていた。


あの時はまだ凌哉くんと付き合ってなかったから、私が男の人と二人きりでいても問題はないと思うんだけど…

こんなふうに言われちゃうと、嫌な気持ちはしないな…素直に「はい!」って従いたくなる。私ってちょろい…(笑)



それにしても、改めて隣にいる凌哉くんを見るとめちゃめちゃかっこいいなぁ…♡

背だってすごく高いし、繋いでいる手はごつごつしてて男らしい。こんな人が私の彼氏なんて…信じられないよ。


あー!

今すぐベットにダイブして、キャーって叫んでこの喜びを発散したい!







ピタ…


うちのアパートの前まで来ると、凌哉くんは急に足を止めた。






「凌哉くん…?」

「キスしよ」

「え…?」


無表情で言う凌哉くんに、私は思わず目が点になってしまう。





「なっ、なに言ってるの…?」

「家帰ったらもう今日はキスできねえじゃん。だから最後にしたい」

「…」


それはそうかもしれないけど、そんなストレートに言われてもなぁ…


アパートの前を、さっきから通行人が通り過ぎていくのが見える。ここは駅から近い住宅街だから、この時間でも結構人が通る…






「来いよ」

「え、ちょっ…」


凌哉くんが私の腕を引っ張ると、私をアパートの裏の方へ連れて行った。そしてアパートの1階の部屋のベランダの方へ行くと、私をぎゅうぅと力強く抱きしめる凌哉くん。






「あー…沙世の肌ってスベスベだよな」


私を抱きしめながら手で首やうなじを触ったり、頬をすりすりと擦り付けてくる凌哉くん。





「声大きいよっ…」

「大丈夫だよ」

「………ンっ」


私の後ろ頭に手を回して、凌哉くんは隙をついたようにキスをして来る。


1階のベランダのカーテンの隙間からは灯りが漏れていて、住人がいるのは当然だろう…

あの隙間から見られてるんじゃないかと気が気じゃなく、私はキスに答えながら落ち着かない仕草を見せた。




それに、3階の端の部屋は私の家。部屋に親や弟達がいるのに、こんなところでこんなことしてていいのかな…

なんだか、すごくいけないことをしている気分だ。






「ねえ…」

「…な、に?……ンっ」


キスの最中に口を開いた凌哉くんに、私が返事をするとそれをさえぎるようにまたキスをしてくる。






「やっぱり連れ去ってもいい?」

「なっ…」


私から唇を離すと、凌哉くんは耳元でそう囁いた。その口調はいやらしくしか聞こえない言い方で、私は一気に顔が熱くなった。





「バカ!」

「いいじゃん。誘拐させてよ」


その“誘拐”の言い方もなんだか意味深。私は「ダメ!」と小声で言い張ると、凌哉くんは拗ねたような顔をして両手を自分の頭の後ろに回した。
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