オオカミくんと秘密のキス
私はスタスタとアパートの出入り口に戻り、平常心を取り戻すに必死。こんなドキドキした冗談で家に帰れないよ…





「♪~」


私よりも遅れて戻ってくる凌哉くんは、鼻歌を歌っていてなんだか落ち着いていて余裕を見せている。


なんでこんなに普通にしていられるの…?

本当に今まで誰とも付き合ったことないのかな…その割にはいつもなんでも余裕に見えるのはなぜ?慣れてるというか…

それとも生まれ持ったオオカミの血ってやつかも。そう思うと恐ろしい…





「ちょっと待って」


アパートに入ろうとすると、凌哉くんが後ろから私の手を掴んで来る。足を止められた私は、急にブレーキをかけられたように立ち止まる。








ぎゅっ…





そして凌哉くんはそのまま私をクルッと自分の方に向かせると、そっと抱きしめた。

私は恥ずかしくなりながらも、凌哉くんの着ているジャージの袖を掴む。





ドクドク…

ドクドク…



2人でぴたりとくっついていると、凌哉くんの心臓の音が聞こえてくるような気がする…




凌哉くんも…ドキドキしてるの…?


胸に顔をうずめながら、凌哉くんの鼓動を肌で感じていた。





こんな気持ち…今まで感じたことなかったなぁ…

あったかくて、ちょっとくすぐったい…


これが幸せっていうのかなぁ…






「…ハっ!」


その時、数メートル先にうちの隣に住むファミリーの仕事帰りの旦那さんが見えた。




「や、やばい」

「え?」


とっさに凌哉くんから離れると、アパートに不自然に突ったっている私達を見て、お隣の旦那さんは気まずそうに笑って会釈をしてきた。




「こんばんは」

「こ、こんばんは…アハハ」


ごまかすように挨拶を返すと、旦那さんがアパートに入っていく。




どうしよう…

抱き合ってるところ見られたかな!?







「あの人誰?近所の人か?」


後ろから私に抱きついてくる凌哉くんは私の耳元でそう言って、私は素早く凌哉くんから離れる。





「だっ、ダメ!」

「は?何がだよ」

「うちの前でそういうことしないでっ!今の人うちのお隣さんだったの!見られたりしたら気まずいでしょ」


ベタベタしてる以前に、男の子と一緒にいるところを見られたことすら恥ずかしいんだから…







「そうか?俺はうちの近所の人に見られてもどうも思わないけどな」

「私は思うのっ!」


今度会ったときに、なんかすっごく恥ずかしいじゃん!







「…ふーん…なら違う場所でならいちゃついても構わないってこと?」

「え?」


私にぐっと顔を近づけてくる凌哉くんは、なんだかドS顔に切り替わっているように見える。




「外ならこっちもまだどっかでセーブしてるけど、密室ならもっとイケナイこと出来るもんな」

「なっ…バカじゃないの!」

「楽しみ楽しみ♪」


嬉しそうに笑う凌哉くんの顔は、なんだか悪魔みたいに見えてきた。
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