オオカミくんと秘密のキス
「変態オオカミっ!絶対しないからっ!!」

「はいはい」


スタスタと先にアパートに入っていく凌哉くんを追いかけながら、私はずっと叫んでいた。


こんな調子で、これからもずっと私は凌哉くんにからかわれていくのかな…何枚も上手の凌哉くんを、私はどこまで交わすことができるだろう。

別に嫌なわけじゃないし、どこか嬉しい気持ちもあるってことは…私ってMなのかな…凌哉くんみたいなドSのこと好きって、Mしか考えられないよね。しかも“ド”が付くのかも…







ガチャガチャ…



「あれ?鍵が閉まってる…」


うちの玄関の前まで行きドアノブをひねると、鍵がかかっていた。いつもは誰かしら出かけてる時は、鍵は開いてるのにな…

お母さんと洋平、隆也くん連れて外食でも行ったのかな…


不思議に思いながらも、カバンから鍵を出して玄関の鍵を開けた。







カチャ…ガチャ…

キィ…






「おめでとう~!!!!」



びくっ


パァンッ!!!

パンパンッ!!!!




玄関のドアを開けると、お母さん達が叫ぶ声がして次にクラッカーのような大きな音がする。

びっくりした私は、後ろにいる凌哉くんに思わず抱きついてしまった…







「おっかえり~!」

「お、お母さん!?」


すると、クラッカーを持ってテンションの高いお母さんが玄関へやって来る。少し酔っているのか、お酒くさかった。奥には洋平と隆也くんもいて、お母さんと同じくクラッカーを持って笑っていた。





「やっと帰ってきた!2人揃ってるってことは、うまくいったのね♪きゃー!嬉しい♡♡♡」

「え?」


うまくいったって…どういう意味?


凌哉くんもお母さんを見て笑顔を向けてるし…






「とにかく中に入りなさい」


お母さんはそう言ってリビングに戻って行った。私と凌哉くんはとりあえず玄関で靴を脱いで、家の中に入った。

リビングのテーブルには、ケーキやら数品のパーティメニューが並べてある。こんな料理は普段のわが家のテーブルには上がらないものばかりだ。







「どうしたのこれ?」


今日ってなんかあったっけ?




「2人の門出のお祝いよ♪」

「は……?」


お母さんはキッチンの棚から、小皿やフォークを出して言う。





「昼間、凌哉くんが隆也くん連れてうちに遊びに来た時にね…『沙世にこれから告白するつもりです』って言うから、お母さんずっと応援してたのよ~」

「えええ!何それ」

「凌哉くんなら沙世の彼氏で大歓迎だし、沙世がいいならお母さん反対しないって話してたのよ」


嘘…そんなことがあったの?


リビングのテーブルの椅子に腰掛けた私は、隣に座る凌哉くんに目を向けた。







「そうだったの…?」

「ああ。付き合うならちゃんと親公認がいいと思ってたしな」


私の知らない間に、そんなことがあっただなんて…親公認とか…ひとつひとつの行動がかっこよすぎる…



私が下をうつむいて顔を赤くすると、洋平が横からぐっと顔を出してきた。






「姉ちゃん!ケーキは俺が切ってやるからな!んで、俺と隆也が先に選んでいい?」

「はいはい」
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