【いつきの小説講座】
さて、かといって逆に漢字を何でもかんでもひらがなにすればいい、というわけではもちろんない。

ちなみに、漢字をひらがなやカタカナにすることを、“漢字をひらく”と呼ぶ。

覚えておくといいぞ。

では先ほどの例文をもう一度。




 恭しく俺は一礼をし、宛ら空蝉の如く壁の隅に身を引いた。

 ウェイターというのは所謂、黒子のようなものなのだ。




これをひらくとしたらどのようにするか。

作者にやらせてみよう。




 うやうやしく俺は一礼をし、さながら空蝉(うつせみ)のごとく壁の隅に身を引いた。

 ウェイターというのはいわゆる、黒子のようなものなのだ。




と、まぁこうなる。

ここのポイントはどれをひらいてどれにルビ(ふりがな)をふるかというところ。

まぁこれは各々の好みの部分が大きいからひとえにはいえないところは、ある。

だがそれじゃ講座の意味がないんでとりあえず作者の定義を参考にしてみよう。

作者の中での定義は




1)漢字でなくても特に良い難しい読みの漢字はひらく

例「所謂(いわゆる)」「所詮(しょせん)」「専ら(もっぱら)」「恰も(あたかも)」「番い(つがい)」など


2)文章のアクセントとして使いたい場合はルビをふる

例、さっきの「空蝉(うつせみ)」のような場合


3)基本的に、ごく普通に生きててみないような漢字は使わない。逆にひらがなでみたことがないものは漢字でなるべく使う。




漠然としてはいるがこのようなところ。

あとは他の書籍なんかをみて参考にするといい。

特に雑誌や新聞などは年代を問わず不特定多数の人間に読んでもらうことを前提にしているからとても良い教材だ。

小説なんかだと必ず作者側で“対象とする読者”を決めて書いているからスタンダードを勉強するにはちょいと不向きなんだな、これが。

いいかい?

大事なのは──



自分が理解できても読者が理解できるとはかぎらない


ということ。
それが文章表現の大前提であることを忘れないようにしよう。


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