片道キップを二人分

そろそろ帰ろうか、と言われたのにもう少し、と言ったあたしの頭を、徹也さんは少しだけ困ったように笑って撫でてくれた。
徹也さんは何も気づかない訳でも、思う所がない訳でもないのだろう。



ただ、あたしが何も言われたくないのさえも分かって、何も言わずに居てくれるのだ。
自分が酷いことをしている自覚はあったけど、あたしは自分の心を守ることに必死だった。




強くなりたいと願っても、幸せになりたいと願っても。
斗真の顔を見てしまえば、斗真を好きだという気持ちだけであたしの中は溢れてしまう。



傍にいることも、言葉を交わすこともできずにいれば、それは尚更、あたしの想いを深くするばかりのようで。
蜘蛛の糸にでも巻き付かれてしまったかのように、雁字搦めにされて、呼吸さえままならないような感覚に陥った。