恋日和 〜キミに届かない恋でも〜
* * *





ふわり、と吹く風に肩下までのおろしている髪が柔らかくなびいた。


風と一緒に、春のにおいもやってきた。



窓枠に腕を乗せて、この病室から見える景色をぼーっと見る。

すぐ目のまえにある桜の木の枝のさきについた、薄いピンクのつぼみは、もうすぐ咲きそう。



「莉子ちゃん? って、あれ?」



その声に振り返ると、そこには看護師の人が立っていて、彼女は不思議そうな顔をして私を見ていた。



「あっ。あたし、希子です」

「あら、本当にそう?」



疑りぶかくそう聞いてくる福原(ふくはら)さんに苦笑いを向ける。



「右目の横にほくろがあるのが、あたしです」



そう言うと、福原さんは近づいてきて、あたしの顔をまじまじと覗き込んだ。


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