恋日和 〜キミに届かない恋でも〜
「……あ、莉子!」
怖くて視線を少しずらすと、教室のうしろのドアからなかを覗く莉子の姿が目に入った。
「ちょっと行ってくる!」
春馬にそう言って、すぐに莉子のもとに行く。
あたしが莉子のまえに行くと、莉子はホッとしたように不安そうな顔をほころばせた。
「どうしたの、莉子」
「希子のこと呼ぼうとしたんだけど、呼べなくて……。 あのね、数学の教科書を忘れちゃったの」
「あたしいま数学だったから、貸すよ! ちょっと待ってて」
「うん」
自分の席に戻ろうと踵を返すと、ちらちらとこっちを見ていた春馬と目があった。
「春馬、教科書貸して?」
春馬の席に行ってすぐに、そう声をかける。
「は? なんで」
「ほら、あたしの教科書は落書きばっかだし。見せらんない」
「べつに姉妹なんだし、そんくらい平気だろ」
春馬はわかってないなあ……。
あたしが気を遣ってあげてるのに。