恋日和 〜キミに届かない恋でも〜
こうすれば、莉子が春馬に教科書を返すときに、話すきっかけになると思って。
だって最近、ふたりはあんまり話してないし。
「だめなの!」
「はあ?」
わけがわからない、とでもいうような顔をされた。
「とにかく時間ないから借りるね!」
これ以上続けても『いいよ』なんて言わなさそうだから。
机のうえに置いてあった、ちょっとぼろぼろの教科書をかっさらって、莉子のもとに行った。
教科書の裏に書いてある〝河西春馬〟という消えかかった文字を、莉子は不思議そうに見た。
「これ、春に借りたの?」
「うん!」
「……平気?」
「平気だって! ほら、チャイム鳴っちゃうよ」
教室のなかの時計に目を向けると、あと30秒で6時間目が始まってしまう。
そのことに気がついた莉子は、少し戸惑いながらも『ありがとう』と言って隣のクラスに戻って行った。