恋日和 〜キミに届かない恋でも〜
「だからまさか、高校で会った〝希子〟と、中3のときに好きだった〝キコ〟が別人だなんて、思いもしなかった」
静かな車内に、小さな三吉くんの声。
電車が線路を走る音で、ところどころ途切れて聞こえた。
「だから驚いて、あんなひでーこと言った……。ごめん」
「もう、大丈夫だから」
謝ることなんてないよ。
もっともっと、よく考えてみればよかったのかもしれないんだから。
「莉子ね、三吉くんのことを話すとき、幸せそうだった。 それほど、莉子も三吉くんのことが好きだったんだよ」
「莉子が……?」
「うん」
三吉くんの口から『莉子』という名前が出てくるのに、ちょっとだけ違和感がある。
莉子はきっと、三吉くんの口から『莉子』と呼ばれたかったはず。
だって、好きな人からは、名前を呼ばれるだけで幸せだから。