恋日和 〜キミに届かない恋でも〜
「基礎? 応用?」
「た、たぶん……基礎」
男の子は『たぶん?』と言いながら、可笑しそうに少し笑った。
「これとかは?」
彼が棚から取り出したのは、『数学を基礎から学ぼう!』という文字が表紙に大きく書かれた参考書だった。
「ありがとう」
「いいよ。 お互いがんばろうな」
「うん!」
彼はまた小さく笑って、勉強スペースのほうへともどって行った。
……優しいな。
わざわざこうやって教えてくれるなんて。
名前、聞けばよかったかな。
どこの中学なのかも。
でも、それもおかしいよね。
初めて会ったくせにそんなこと聞くなんて。
そんな、些細なことからだった。
あたしがあの男の子のことが気になったきっかけはーー。