恋日和 〜キミに届かない恋でも〜
うつむかせていた顔を上げると、瞳が潤んだ春馬と目があった。
「春馬……?」
「嫌なこと考えんなよ。 莉子は笑ってるはず」
「……うん」
「行くぞ」
小さくうなずくと、春馬はあたしの腕を引っ張って、また廊下を歩き始めた。
春馬のあんな顔、初めて見た。
春馬もあたしみたいに、嫌な予感がしているのかな。
病室のまえに来たけど、春馬はなかなかドアを開けようとはしなかった。
ドアに手を伸ばしてはいるけど、その手はすごく震えている。
ねえ、この向こうでは、莉子は笑っているのかな?
いつもみたいに、笑っているかな……。
あたしは春馬の手を退けて、左手でガラッと勢いよくドアを開けた。
するとなかにいた莉子は、驚いた顔をしてあたしたちに視線を向けていた。