ポストモーテムフォトグラフィ
ひととおり、仕立てられたドレスを確認したところで、懐の中の懐中時計を引っ張り出す。
既に午後2時を過ぎていた。
「おっと…そうグズグズしていられないな、写真屋が来てしまう…。さあ、支度をしてしまおうね」
今日の彼女はずいぶんと聞きわけが良い。
僕がそう言っても、横に座れば「お好きなようにどうぞ」とでも言うように体を預けてくる。
しかし彼女の元来の冷え性も困ったもので、足はおろか、それとなく握った手も指もヒヤリと冷たいのには僕も閉口した。
あまり寒いのは可哀そうだろうと、居間に連れていく予定をずらし、僕は湯を沸かすことにした。
それで手足を温めてあげよう。
沸かした湯を少し水でうめて、程よい温度にする。
それを真鍮のボールに入れ、彼女に足を入れさせた。
「温かい?」
温かなタオルで手も拭いてやれば、彼女は満足そうににっこりと笑む。
その細い指は、少し力を入れればぽっきりと折れてしまいそうだ。
そうだ、どうせなら今のうちに化粧だけでも済ませよう。
絹糸のような髪を丁寧にブラシで解す。
唇には、淡い桃色のルージュを。
白い頬の質感を生かすために、ほんの少しのおしろいを乗せよう。
左手の薬指には、作らせていた銀の指輪を。
化粧を終えるころには、もう彼女の手足も温まっていたから、仕立てたドレスを着てもらう。
そして最後にほんわりとした赤いチークを入れてやれば、彼女は僕の見立てどおり見違えるように美しくなった。