ポストモーテムフォトグラフィ
まるで眠っているように、彼女は瞼を瞑ったまま。もう僕を見ることはない。
「…馬車の事故に巻き込まれてね。打ちどころが悪かった」
「そうでございますか…」
「でも、幸いだった。顔に目立つ傷がなかったんだ…ドレスで隠せるところだけ…」
写真家の返答はなかった。
僕はそっと、彼女の腰を抱く。いつもと同じ質感なのに、彼女は冷水のように冷たい体温をしている。
「半年後に式を挙げる予定だった…これはその時に着るものだったんだよ」
しばらくの沈黙を挟んで、写真家は「とても綺麗でございますよ」と優しい言葉をかけてくれた。
絹糸のような髪はもうハリを失い、頬も、唇も、既に色味など失っている。
いくら僕が化粧をして上塗りをしたって、生きている頃の彼女にはとても及ばない。
「…旦那様、泣いちゃあいけませんよ」
唇が震えてしまったのを、写真家はめざとく気付く。
「せっかく旦那様もタキシードを着ているんだ。晴れの日じゃあありませんか」
「ああ…そうだね」
「きっと素敵なお写真になりますから」