ポストモーテムフォトグラフィ
「それでは、写真が出来ましたらまた後日ご連絡しますので」
撮影を終えた写真家はそう言って、機材を片づけ始める。
馬車に乗り込んだ彼に、僕は尋ねた。
「この後もポストモーテムフォトグラフィーかい」
「遺体写真でございますか?ええ。ロンドンの外れで、その依頼がありますので」
「最近は多いの?」
「…何しろ、大事な人との最期の写真だ。いくら高価でも、誰だって欲しがるでしょう?」
僕は含み笑いをした。
「お嬢様の体は、後日弔われる予定ですか」
「ああ。明日、あのままで棺に入れてやるつもりだ。…彼女が好きだった白色のドレスと、指輪と、花と一緒に」
「そうですか…それは」
写真家は曖昧に笑ったのち、馬車を走らせた。
<ポストモーテムフォトグラフィー(遺体写真)>
葬儀業者がまだ無いヴィクトリア朝時代、庶民貴族の間で流行した。
当時まだ写真撮影は高価であったが、それでも庶民は愛する人の最期の姿を残そうと、写真を撮影した。