レイアップ
さっきまで文句をいってやろうと思っていたのに、おれの口からは何も言葉が出なかった。不思議な安堵感と、真実を確信しなければならない恐怖とが入り交じり、呆然とミウを見つめた。そんなおれを見て、ミウは笑っていった。
「どうしたの。幽霊でも見たような顔して」
おれが今まで生きてきた中で一番笑えない冗談だった。
「ミウ、お前本当に・・・・」
おれの言葉を遮るようにミウがいった。
「ねえ、バスケしよっか」
ミウは得意気に人差し指の先でボールを回す。おれはいつもと何一つ変わらないミウの姿を見据えながら、ゆっくりと立ち上がった。
「夏休みもそろそろ終わりだな」
これがミウとの最後の1ON1になる。ミウは頷きもせず、ただ笑ってみせるだけだったけど、それだけは、バカで鈍感なおれでもなんとなくわかった。
いったいどれくらいの時間がたっただろう。それが数十秒なのか、十分だったのかは覚えていない。静かで長い沈黙の中、雨の音だけ優しく響く。おれたちは、ただ試合開始のブザーを待つように互いを見つめながら立ち尽くした。
そして、ようやくミウが呟くようにいった。
「それじゃ、いくよ」