レイアップ
それは閃光のようなドリブルだった。みとれている暇もない最速のドライブ。あとほんの少し体の重心が傾いていたなら一発で抜かれていただろう。かろうじて反射的に動いたおれの体は、ミウのドライブをひとまず止めた。自分の体とミウの体が密着する。ミウの体温、ミウの息づかいがしっかりと伝わってくる。
やっと欠落していた空間が埋まった。全てがリアルで嘘偽りの無い瞬間。ミウと出会って、ミウがおれにくれた大切な時間。
『だけど、本当は存在するはずの無い時間』
頭の中で少年の声がして、おれはその声をかき消すように叫んだ。
「関係ない!」
もうミウが何者であろうと、どうでもよかった。ただこの時間を、ミウという存在を失いたくない。おれは奥歯を噛み締めて、右手をボールへと伸ばした。
しかし、おれの右手はボールにカスることもなく、体は完全に前へと流れた(もっとディフェンスの練習もちゃんとやっておくんだった)。ミウは前に出した脚を軸にして、綺麗なフロントターンでおれをかわす。半円を描きターンしたミウが、おれと背中合わせになる。
「ごめんね」
小さなミウの声が聞こえた。